コロナ禍で苦しんだサプライチェーンの混乱から数年がたち、喉元を過ぎた熱さを忘れた企業も数多くあるが、果たしてそれでよいのだろうか。2025年こそSCM変革に乗り出さなければならない理由について考える。
コロナ禍では、ロックダウンや需給の急変動による対応が追い付かず、製造業のサプライチェーンは大混乱に襲われた。調達に向けたトップ交渉や、倉庫在庫、流通在庫の洗い出しなど、欲しい部品を手に入れるための緊急対応に右往左往し、従来のサプライチェーンの管理やシステムの在り方では、世界規模のサプライチェーンの混乱に対応できないことが明らかになった。
しかし、コロナ禍の影響から完全回復してから約2年が経過し、一時的な安定を謳歌して“喉元過ぎて熱さを忘れた”企業も数多く存在している。ただ、地政学的な問題が世界各地で生まれている他、パンデミック(感染症の世界的大流行)もいつ再び発生してもおかしくない中、このままの体制でよいのだろうか。
2025年は米国で第2次トランプ政権が始まり、新たな関税問題が生まれるなど、サプライチェーンの混乱につながる火種が世界中でくすぶっている状態だ。先進技術の採用により従来は難しかった情報連携が容易に行えるようになり、製造から流通まで、サプライチェーンの全体像の把握や問題点の可視化がリアルタイムで行えるようになってきている。2025年は、あらためてSCM(Supply Chain Management)変革に取り組むタイミングだろう。
製造のグローバル化が進む中、サプライチェーン管理の複雑性は増している。国内の近くの取引先から部品を購入し、それを国内の工場で作り、国内市場で販売するという時代は、サプライチェーン管理もそれほど複雑な作業が必要ではなかった。しかし、製品の複雑化が進み、部品点数などが増える一方で、調達がグローバル化してくると、調達先やロジスティクスも複雑化し、さらに海外のさまざまな事象がサプライチェーンに影響を与えることになり、脆弱性が高まっている。その中で、従来は問題なかった作業を人手で全て担うのが難しい状況になっている。
MONOist主催のサプライチェーンについてのオンラインセミナー「サプライチェーンセミナー2024秋」で来場者にとったアンケートでは「サプライチェーンを運営する課題や悩み」として「属人作業が多い」(50%)が最も多い回答となった。次いで「リアルタイムでの情報把握」(45%)「リスク管理」(34.2%)「コスト高」(26.7%)「品質情報の把握」(26.7%)などが高い比率となっている。
コロナ禍でも露呈したことだが、サプライチェーン管理の現場では思った以上に人手による作業が多く残されている。その要因の1つが、データやシステムの分断だ。販売計画、生産計画、調達計画などを調整する計画系のシステムと、販売や物流、倉庫、製造などの実行系のシステムは分断されており、データをシームレスに活用できるようになっていない企業が多く、サプライチェーン管理担当者はデータを手作業で集めるケースもよく見られている。さらに、地域ごとや製品ごとにデータ管理手法が異なり、調整や整備だけで多くの時間を浪費しているケースも多い。
そのため、市場で急激な変化が起こった際もそれを把握するだけでも時間をかかり、そして問題点がどこにあるのかを見つけるまでにはさらに時間がかかる状況が生まれている。結果的に対応が後手を踏み、問題が大きくなり取り返しのつかない状況となっている。調査結果でも「属人作業が多い」や「リアルタイムでの情報把握」が上位に挙がっているのには、こうした背景がある。
さらに、企業への要求として、サプライチェーン全体での情報を統合的に把握するような要求も高まってきている。その1つが、環境問題対策におけるカーボンフットプリント(製品ライフサイクルにおける温室効果ガス排出量をCO2換算したもの)の把握だ。企業における温室効果ガスの排出量の算出については「GHGプロトコル」が多くの企業で採用されているが、GHGプロトコルはサプライチェーン全体で企業による温室効果ガス排出を捉える「サプライチェーン排出量」の考え方を採っている。
サプライチェーン排出量を「スコープ」という区分を用いて、「スコープ1」と「スコープ2」そして「スコープ3」の3種類で分類している。スコープ1は工場における燃料の燃焼など、企業自らによる排出(直接排出)を示し、スコープ2は国内外で他社から購入した電気、熱、蒸気などの使用に伴う排出が該当する(間接排出)。そしてスコープ3では、スコープ1、2以外での、サプライチェーン上でのGHG排出量が対象となる。スコープ1やスコープ2は自社内で把握可能だが、スコープ3はサプライチェーン全体が対象となるため、取引先からの情報を集めて把握する必要がある。企業間の情報連携については、地域や業界におけるデータスペースの構築が進んでいるが、企業内でこれらの情報を取りまとめる仕組みとしてSCMシステムの役割を広げる動きが進んでいる。
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