安全性とは、ユーザーに危害を加えないことである。一般的な検証項目を3つ挙げる。
無理に押せば倒れるような大きな製品の場合、ユーザーが製品に誤って触れてしまい、製品が転倒して人にけがをさせないことを確認する。設計では、一定角度以内では転倒しないようにする必要がある。
AC電源をつないだまま手で持てる製品の場合、誤って製品を落下させて外装部品が外れてしまったときに、製品内部の活電部にユーザーの指が触れて感電しないことを確認する。設計では、ある高さで製品を落下させても、製品内部に指が入る隙間が生じないようにする必要がある。
電気部品が耐熱温度以上になり発火し、製品が燃えてユーザーがやけど、もしくは火事にならないことを確認する。設計では、電気部品の温度が耐熱温度以上にならないようにする必要がある。
3)電気部品温度試験のように、ユーザーに対して甚大な損害を加える可能性のある内容については、各国の法令で安全規格が定められている。この詳細については連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」の連載第3回「ユーザーに危害を加えない設計をしていますか?」を参照してほしい。
また、スタートアップの作る製品が特徴的なものであれば、上記のような一般的な検証項目や安全規格にはない検証項目が必要となる場合が多い。そのような検証項目は、製品の機能や使用方法をよく理解しているスタートアップが新たに考えて、ODMメーカーに提示する必要がある。ただ、市場に類似製品がなければ、ODMメーカーも考え出すのは難しい。このような場合には、「FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)」を行うとよい。以降で詳しく説明する。
例えば、前面の扉が開閉するオーブントースターを例に挙げ、使用中にどのような危害をユーザーに加える可能性があるかを考えてみる。
次に、それぞれの発生頻度と危険度の点数(最高5点)を付けて、足し算する。
あらかじめ、合計点数に応じた対応方法を決めておく。例えば、次のような内容だ。
これを基に、合計点数から以下のような対応が決まる。
たとえ点数が6点以下であっても、設計期間と部品コストの許す範囲で設計対応するのが基本である。そして、それを含めて設計対応すると決まった項目を検証項目として挙げるのだ。検証項目が決まった後には、その試験方法と判定基準を決めなければならないが、それはODMメーカーや製品化設計の専門家に相談するとよい。なお、FMEAの実施方法の詳細については、インターネット上に多くの解説があるので、そちらを参照してほしい。
安全規格に定められていなければ、「何を検証項目にするか」や「判定基準をどうするか」はスタートアップに一任される。しかし、安全性が低い製品は市場で評判が悪くなり結果的に売れなくなる。また、ユーザーから極端に安全性が低い製品と判断されれば、PL(製造物責任)法で損害賠償を求められる可能性もある。よって、スタートアップが検証項目と判定基準を自由に決められるといっても、最終判断は市場が行うことを念頭に置かなければならない。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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