表面実装機を応用したセルハンドラーが進化、11兆円市場を狙うFAニュース(2/2 ページ)

» 2024年11月15日 15時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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後継モデルの画像解析力とAI

 後継モデルは画像解析力を向上させた。観察精度に関しては20倍の対物レンズを追加するとともに、4倍と10倍のレンズでは位相差観察が可能になり、高解像度の画像で観察できるようにした。画像データの収集に対してはオートフォーカス機能を搭載。対象となる細胞の高さを自動で認識し、撮像準備にかかる時間と手間を削減する。蛍光観察システムに使用できるフィルター数を従来の3色から5色に増やした他、細胞の拍動なども記録できる動画での撮影が可能になった。

 また、対象の細胞のみを確実に吸引できたことを示すため、撮影画角外の環境も確認できるよう画像を自動でつなぎ合わせた「タイリング画像」を生成し、全体像を高品質に記録する。処理性能向上に当たっては、CPUやメモリ、GPUも増強した。

 AI(人工知能)機能を採用し、研究効率の向上に貢献したい考えだ。AIによる細胞の高精度な選別と、オートフォーカス機能によるスムーズで明瞭な画像撮影により、さらに精緻な作業を実現するとしている。AIにより、従来モデルでは識別が難しかった条件でも対象の細胞を検出、収集するとともに、ユーザーごとの独自のプレート容器や細胞容器にも対応できるという。

 発売時に搭載するAI機能は、目標とする細胞の輪郭を検出することに対応している。ユーザーから細胞のデータを提供してもらい、ヤマハ発動機がユーザーの要望を基に正解データ作成のアノテーションを行った上で学習させ、ユーザーごとにAIをカスタマイズする。追加学習も同様にヤマハ発動機が請け負う。将来的には、培養された細胞のよし悪しもAIが評価できるようにするなど機能の拡張を検討していく。

 細胞画像のアノテーションは、研究そのものに直結しない長時間の作業であり、ユーザーである研究者が自ら行うのは負担が大きいと考え、ヤマハ発動機がアノテーションや学習を請け負う形態とした。「1枚の画像に数百個の目標とする細胞があって、それに全て印をつけなければならない。それを複数枚の画像に対して実施する。自動車の自動運転技術向けのアノテーションよりも負担は大きいのではないか。まずはヤマハ発動機でも人海戦術的にアノテーションをやっていくが、自動化技術にも期待したい。また、ユーザーが自前でアノテーションをやりたいというニーズがあれば対応していく」(ヤマハ発動機 新規事業開発本部 MDB部 技術グループリーダーの熊谷京彦氏)。

 細胞の画像は研究の根幹に関わるため、ユーザーとヤマハ発動機で秘密保持契約を結ぶなどして厳重に取り扱うという。

 セルハンドラーシリーズの画像認識技術にはヤマハ発動機社内の表面実装機での知見が、AIでも社内のロボティクスや農業などの経験が生かされている。

ユーザビリティも改善

 既存のユーザーの声を踏まえてユーザビリティを改善した。細胞吸引後の画像撮影におけるトレーサビリティーを向上させ、データの信頼性を高める。具体的には、対象細胞の吸引前後の撮像や、撮像した個々の細胞の詳細情報の取得に対応した。吸引後の細胞の位置を中心に画像を撮影することで、対象の細胞だけを吸引できたか確認できる。

 ダメージを抑えながら10μmから500μmまでの細胞を吸引、吐出する特殊チップと8連ヘッドは、初代セルハンドラーから後継モデルにも引き継いだという。8連ヘッドは20%の高速化を実現したとしている。これにより、1時間で1536個の細胞を移動させることができる。

写真左からヤマハ発動機 新規事業開発本部 MDB部 部長の松野潔高氏と同部の熊谷京彦氏[クリックで拡大]

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