東芝は、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)と同等の体積エネルギー密度を持ちながら、約10倍以上の回数で超急速充電を行える長寿命性能を備えたリチウムイオン電池を新たに開発した。同社が独自に開発を続けてきたNTO(ニオブチタン酸化物)を負極に用いており、バスやトラックなどの大型商用車に適しているとする。
東芝は2024年11月6日、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)と同等の体積エネルギー密度を持ちながら、約10倍以上の回数で超急速充電を行える長寿命性能を備えたリチウムイオン電池を新たに開発したと発表した。同社が独自に開発を続けてきたNTO(ニオブチタン酸化物)を負極に用いており、バスやトラックなどの大型商用車に適しているとする。同年6月から行っている、ブラジルのミナスジェライス州のアラシャ鉱山内で開発品を搭載したEV(電気自動車)バスの実証走行を通じて、商用化に向けた取り組みを進めていく方針である。
新開発のリチウムイオン電池は、5分間で電池容量の約70%を充電できる超急速充電が可能である。超急速充電と放電を1万5000回以上繰り返しても80%以上の電池容量を維持できる長寿命性能も有する。また、一般的なリチウムイオン電池では対応が難しい−30〜60℃という寒冷から酷暑までの過酷な温度環境下でも超急速充電を行える。そして、NTO負極の特性としてリチウムの析出が原理的に起こらないことから発煙/発火のリスクが極めて低い。
商用車は稼働率が高く、厳しい外気温の中で運行されることが多い。この商用車をEV化したEVトラックやEVバスといった商用EVででは、搭載するリチウムイオン電池に対して、超急速充電、長寿命性能、高い安全性と信頼性が求められる。新開発のリチウムイオン電池は、これらの要求を満足する。また、超急速充電を繰り返し行うことで電池の搭載量を減らせるとともに、長寿命なので電池交換の回数も削減できる。商用EVの初期コストと運用コストの両方を削減でき、総所有コスト(TCO)の低減が期待できるとしている。
NTO負極を用いたリチウムイオン電池では、放電状態で絶縁性を持つ負極中のNTO粒子に電子を導通させるために大量の導電剤が用いる必要があった。この導電剤によるエネルギー密度の低下や、導電剤と電解液の副反応による寿命低下が実用化に向けた課題になっていた。
今回開発したのは、NTO粒子の表面にナノレベルの導電剤を均一に分散させ、粒子間に強固な導電ネットワークを形成する電極製造技術である。これにより、わずかな量の導電剤で導電ネットワークを形成できるため、従来と比べてエネルギー密度と寿命の向上が達成でき、さらに高い安全性を維持した状態で高い入出力性能も実現できるようになった。
実証走行を行っているEVバス向けに容量50Ahの大型電池セルを開発した。循環バスの運行を模擬した超急速充電と放電を繰り返すサイクル試験では、7000サイクル後でも93%以上の容量を維持できることを確認した。超急速充電サイクルで使用できる回数は1万5000回以上と推定されている。
例えば、1回の充電で100km程度走行できる必要最小限の電池をEVバスに搭載した場合、1日あたり2、3回の超急速充電を繰り返すような過酷な運用条件でも15年以上(走行距離150万km相当)の利用が可能で、途中で電池を交換することなく、廃車まで使い続けられるようになる。また、超急速充電の活用を前提とすれば、商用EVへの電池搭載容量をさらに減らして、車両コストの削減と軽量化による電費低減も図れる。初期コストと運用コストの両方でコスト削減を図れるため、TCOの低減も期待できるという。
なお、安全性評価としての釘刺し試験でも発煙/発火がなく、EUCAR hazard level 3の高い安全性を確認している。
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