固体酸化物燃料電池の固体電解質内部における空間電荷層の存在を実証研究開発の最前線

東京大学は、燃料電池の固体電解質内部にある空間電荷層の直接観察に成功した。イットリア安定化キュービックジルコニアの結晶粒界に対して高分解能電場観察を実施し、空間電荷層の存在を実証した。

» 2024年11月06日 11時00分 公開
[MONOist]

 東京大学は2024年10月21日、燃料電池の固体電解質内部にある空間電荷層の直接観察に成功したと発表した。固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells:SOFC)の固体電解質として用いられるイットリア安定化キュービックジルコニア(YSZ)の結晶粒界に対して高分解能電場観察を実施し、空間電荷層の存在を実証した。

 研究グループはこれまでに、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy:STEM)を用いた微分位相コントラスト(DPC)法を応用し、結晶界面の電場、電荷を定量的に観察する傾斜スキャン平均DPC(tDPC)法を開発している。今回は、tDPC法と原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(Magnetic field-free Atomic Resolution STEM:MARS)を用いて、YSZのモデル粒界の電場観察、原子構造観察、組成分析に取り組んだ。

キャプション (左)tDPC法による空間電荷層の電場観察の模式図。試料に対して複数の角度から電子線をスキャンし、透過した電子線を分割型検出器で検出する。試料内に空間電荷層による電場があると、透過電子が右向きに偏向し、電場を観察できる。(右)観察した粒界電場像の一例。粒界中央は粒界に吸い込む方向の電場が、粒界周辺は粒界から湧き出る方向の電場が見られ、電場、電荷分布を観察できる。[クリックで拡大] 出所:東京大学

 解析の結果、イットリウムが多く高濃度化している粒界に大きな空間電荷層があり、高濃度化していない場合は小さいことが分かった。これは、イオン伝導キャリアの酸素空孔が粒界中央部の正電荷に反発して空乏化し、反対に負に帯電しているジルコニウムサイトのイットリウムが中央部の正電荷に引き寄せられて高濃度になったと考えられる。空間電荷層における酸素空孔の空乏化が伝導キャリア不足をもたらし、伝導性低下の要因となることが示唆された。

キャプション 4つのYSZ粒界の原子分解能観察結果(上段)と、STEMエネルギー分散型X線分光法によるイットリウム濃度の場所による違い(下段)。結晶の方位が異なると結晶粒界の原子構造が変わり、それに伴ってイットリウム濃度が異なっている[クリックで拡大] 出所:東京大学
キャプション 空間電荷層の電場が存在する粒界における酸素空孔(赤い丸、VO++)とイットリウム(緑色の丸、YZr)の分布の模式図 出所:東京大学

 また、空間電荷層が粒界の結晶方位や原子構造、結晶粒界へのイットリウム偏析と相関関係にあることも分かった。空間電荷層が存在しない結晶粒界も発見できた。

 結晶粒界の空間電荷層は、他のイオン伝導体でも伝導特性に関わっていることが考えられる。今後、結晶粒界の構造制御で空間電荷層を抑制する技術が開発されることにより、電池材料の性能向上が期待できる。

⇒その他の「研究開発の最前線」の記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.