東京大学は、燃料電池の固体電解質内部にある空間電荷層の直接観察に成功した。イットリア安定化キュービックジルコニアの結晶粒界に対して高分解能電場観察を実施し、空間電荷層の存在を実証した。
東京大学は2024年10月21日、燃料電池の固体電解質内部にある空間電荷層の直接観察に成功したと発表した。固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells:SOFC)の固体電解質として用いられるイットリア安定化キュービックジルコニア(YSZ)の結晶粒界に対して高分解能電場観察を実施し、空間電荷層の存在を実証した。
研究グループはこれまでに、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy:STEM)を用いた微分位相コントラスト(DPC)法を応用し、結晶界面の電場、電荷を定量的に観察する傾斜スキャン平均DPC(tDPC)法を開発している。今回は、tDPC法と原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(Magnetic field-free Atomic Resolution STEM:MARS)を用いて、YSZのモデル粒界の電場観察、原子構造観察、組成分析に取り組んだ。
解析の結果、イットリウムが多く高濃度化している粒界に大きな空間電荷層があり、高濃度化していない場合は小さいことが分かった。これは、イオン伝導キャリアの酸素空孔が粒界中央部の正電荷に反発して空乏化し、反対に負に帯電しているジルコニウムサイトのイットリウムが中央部の正電荷に引き寄せられて高濃度になったと考えられる。空間電荷層における酸素空孔の空乏化が伝導キャリア不足をもたらし、伝導性低下の要因となることが示唆された。
また、空間電荷層が粒界の結晶方位や原子構造、結晶粒界へのイットリウム偏析と相関関係にあることも分かった。空間電荷層が存在しない結晶粒界も発見できた。
結晶粒界の空間電荷層は、他のイオン伝導体でも伝導特性に関わっていることが考えられる。今後、結晶粒界の構造制御で空間電荷層を抑制する技術が開発されることにより、電池材料の性能向上が期待できる。
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