日本の労働生産性の推移を、新興国の国々と比べると何が見えてくるか小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(28)(2/2 ページ)

» 2024年10月29日 05時30分 公開
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東欧/南欧諸国の労働生産性

 続いてイタリアの属する南欧や、ポーランド、ハンガリーなどの東欧諸国はどうでしょうか。

図3:東欧/南欧の労働時間当たり実質GDP(購買力平価換算値) 図3:東欧/南欧の労働時間当たり実質GDP(購買力平価換算値)[クリックして拡大] 出所:ILOデータベースより筆者にて作成

 東欧/南欧諸国の労働時間当たりGDPを見ると、イタリアやスペインの水準が相対的に高いようです。スペインは上昇傾向にありますが、イタリアは横ばい状態が続いていますね。ギリシャも経済的に不安定な国という報道がされがちですが、労働生産性については停滞しつつも日本を上回る水準にあるようです。

 その他の代表的な東欧/南欧の国々も2023年の段階では、35〜50ドルくらいの水準に達して日本に近い水準となっています。特に近年では、スロベニアやリトアニア、チェコ、クロアチア、ポルトガルなどの国々が日本を上回り、スロバキア、ルーマニアなどとの差もかなり縮まっているようです。

アジア/大洋州の労働生産性

 つづいて、日本や中国の属するアジア/大洋州の労働生産性です。日本との経済的な結び付きの強い国や地域が多く含まれますので注目してみてみましょう。

図4:アジア・大洋州の労働時間当たりの実質GDP(購買力平価換算値) 図4:アジア/大洋州の労働時間当たりの実質GDP(購買力平価換算値)[クリックして拡大] 出所:ILOデータベースより筆者にて作成

 アジア/大洋州には日本を上回る国や地域も多いことが分かります。圧倒的な水準にあるシンガポールや、オーストラリア、ニュージーランドなど大洋州の国々、台湾、香港、韓国も近年では日本を上回ります。資源国で知られるブルネイも高い労働生産性を誇りますが、やや減少傾向にあるのも特徴的です。

 東南アジアのタイやインドネシア、フィリピン、ベトナムなどは上昇傾向にあります。ただ、日本との差はまだ大きい状態です。インドやバングラディシュなどはさらに低い水準となっています。

 今のところアジア/大洋州地域での日本の労働生産性は、相対的に見て高いと言えます。ですが、幾つかの国々には追い抜かれ、その差が開いています。その他の国々との差も、少しずつ縮まっているように見受けられます。

労働生産性の世界ランキング

 最後にILOで公開されている労働時間当たりGDPについて、最新の2023年の世界順位を見てみましょう。日本の国際的な立ち位置がより明確に見えてくるかもしれません。

図5:労働時間あたり実質GDP(購買力平価換算値) 図5:労働時間あたり実質GDP(購買力平価換算値)[クリックして拡大] 出所:ILOデータベースより筆者にて作成

 図5が世界189の国や地域における労働時間当たりGDPについて上位50か国を並べたものです。主要国以外については、青が西欧/北欧、緑が中南米、橙がアジア/大洋州、黄が中東地域であることを示します。

 上位はやはり西欧/北欧諸国が多く占めていますが、アジア地域ではシンガポールが10位に入っています。米国が13位、ドイツ15位、フランス16位、イタリア18位、英国20位と上位20か国にG7を構成する多くの国が含まれていますね。アジア/大洋州/中東諸国は20位〜30位台、東欧諸国が30位〜50位台で多く出現しています。

 日本は41.65ドルで47位という水準のようです。日本は高齢労働者やパートタイム労働者が増えている上、失業率が低いため、やや低めに計算されるという指摘もあります。それらを割り引いて考えたとしても、国際的な水準としてはいま一つな結果と言えそうです。

 労働生産性を少し製造業に寄せて考えてみましょう。日本はモノに関わる生産現場の労働生産性は非常に高いのではないかと思います。一方で、下請け構造が根強く残っており、1つのビジネスに関わる人が多いので間接部門の業務が非効率化してしまっている、といった問題がよく指摘されますね。同様にある分野では効率化が進んでいるけれども、別の分野では課題があるという業界は他にもあるかもしれません。

 普段はOECDのデータを中心にご紹介していますが、世界全体の国/地域のデータを改めて見てみると、日本の立ち位置を相対的に把握できて大変興味深いのではないでしょうか。

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筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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