もう少し詳しく、ペン先の出し入れの仕組みを見ていきましょう。
ノックボタンの回転子側は、ギザギザした形状をしています。回転子には、このギザギザにかみ合うようなツメが3箇所付いています。
ノックボタンを押すと連動して回転子、インクチューブも一緒に押されます。このとき、インクチューブ側にはスプリングがあるので、ノックボタンを押す方向とは逆方向の力が働き、回転子は常に押されている状態となります。以降の図では、回転子の回転する様子が分かりやすいように、1箇所のツメに赤色の●印を記してあります。
ノックボタンを押している過程では、カムがガイドとなり回転子のツメはノックボタンのギザギザ形状の途中にありますが(【1】の状態)、ノックボタンを押し切った状態になると回転子がカムから外れ、スプリングに押されることでギザギザの一番へこんだ位置に移動します(【2】の状態)。
ノックボタンを離すと、スプリングの力で戻り始めます(【3】の状態)。その戻る過程で回転子はカムのへこみに引っ掛かり、ノックボタンだけが戻って回転子が取り残されます(【4】の状態)。この回転子がカム機構に取り残されている状態が“ペン先が出ている状態”になります。
ペン先を戻す動作も、基本的には同じ動作を繰り返します。ペン先が出ている【4】の状態から、ノックボタンを押すとノックボタンに付いたギザギザが回転子に引っ掛かり、回転子を押し出します。このとき、ノックボダンのギザギザに合わせて回転子は回転します(【5】の状態)。ノックボタンを離すと、スプリングの力で回転子が押し戻されます。押し戻される過程でカムに引っ掛かり、さらに回転子が回転します(【6】の状態)。こうして回転子は元の状態に戻り、ペン先が内部に収まります(【7】の状態)。
回転子には、3つのツメが均等に付けられています。均等ですからその角度は120度になります。この120度の間でペン先が1回出し入れされます。この動作を繰り返すことで、ノック式ボールペンは延々とペン先の出し入れを繰り返します。
今や100円で購入できてしまうボールペンですが、その中身はなかなかに精密な機構と複数の部品で構成されていることが分かります。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック 代表取締役(2代目)。『作りたい』を『作れる』にする設計屋としてデザインと設計を軸に、アイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド『factionery』では「第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞」を受賞している。
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