カシオ計算機は関数電卓の新機種開発において、製品文字の視認性数値化のアプローチを取り入れ、文字の見やすさ/製品の使いやすさの向上を図っている。取り組み内容について担当者に話を聞いた。
どんなに高機能でも、どんなにデザインが優れていても、使い勝手が悪ければ製品としての魅力は半減してしまう。これはテレビやスマートフォンといった身近なコンシューマー製品だけに限った話ではない。例えば、学校などで使用される教育機器では、筐体に印字されている文字の見やすさや操作性を含めた製品の“使いやすさ”は、デザイン性以上に重要な指標となっているのだ。
国内外の教育現場/学生たちに向けて、関数電卓を展開するカシオ計算機(以下、カシオ)では、全てのユーザーにとって使いやすい関数電卓の実現を目指し、“Approachable(使いやすい)”をスローガンに掲げ、製品開発に取り組んでいる。
今回、カシオが新たに取り組みを開始した「関数電卓における製品文字の視認性数値化」について、同社 羽村技術センター 開発本部 開発推進統轄部 第二開発推進部 21開発推進室 リーダーの土屋敦志氏と、同社 羽村技術センター 開発本部 機構開発統轄部 機構技術開発部 機構技術開発室の鈴木健也氏に話を聞いた。
ご存じの通り、関数電卓は一般的な四則演算だけでなく、複雑な関数の計算などが行える電卓だ。日本では理系の学生になじみのあるアイテムだが、海外では中高生の授業で広く普及しているという。また、関数電卓と一口に言っても、国ごとに言語や教育要項に合わせて仕様が異なるため、少量多品種での製品展開が求められる。そうした中、日本を含む世界各国で関数電卓を展開しているのがカシオだ。
同社における関数電卓の位置付けと、これまでの取り組みについて、土屋氏は「関数電卓は教育機器に当たるため、“使いやすさ”がデザイン性以上に重要視される傾向にある。われわれは“Approachable(使いやすい)”というスローガンの下、『使いづらそう』『難しそう』といったユーザーの不安やハードルを解消するため、ハードウェア/ソフトウェアの両面でシンプル化を図り、使いやすい関数電卓の実現に取り組んでいる」と説明する。
例えば、スタンダード関数電卓「ClassWiz」シリーズの新機種では、どの方向からでも押しやすい丸型キーを採用したり、筐体に印字されているサブ機能の表記を指で隠れない位置にレイアウトしたりなど、“使いやすさ”を追求した工夫が随所に施されている。
このようなチャレンジを続け、より良い製品づくり、全てのユーザーにとって使いやすい関数電卓の実現に取り組む中、「製品の筐体に印字されている文字の見やすさについても、今以上に何か改善できる余地があるのではないかと考え、“製品文字の視認性の数値化”に挑戦するに至った。文字の見やすさが数値化/デジタル化されることで、視認性の良しあしを定量的な情報を踏まえて判断できるようになり、より良い製品づくりにつながると考えた」と、土屋氏は関数電卓における製品文字の視認性数値化に取り組んだきっかけを語る。
そもそも、人がモノ(対象物)を目で見たときの見やすさ/視認性に影響を与える要素としては、今回のテーマでもある筐体色と製品の文字色(背景と文字)との色差の他にも、文字サイズやフォント、年齢、個人の視覚特性、人種(瞳の色)、使用環境の違いなどが挙げられる。「これらの中で、製品としてコントロールしやすい/コントロールできる要素かつ視認性に与える影響度が大きいものとして、われわれは“背景と文字の色差”に着目することにした」(土屋氏)。
ご存じの通り、関数電卓にはたくさんの機能が実装されており、それぞれのキーに多くの機能が割り当てられている。そして、キートップだけでなく、キー上部の筐体面にもサブ機能を示す表記が細かく印字されており、文字の見やすさが使い勝手にも大きく影響する。
製品文字の視認性の数値化に取り組む以前までは、関数電卓における配色などはデザイナーを含む関係者とコミュニケーションを取りながら、視認性の良しあしを定性的に判断してきたという。もちろん、人の経験や感性、好みといった要素が含まれることが悪いわけではないが、ある種、開発し尽くした製品といえる関数電卓の完成度/ユーザー満足度をこれまで以上に高めていくためには、「デジタル情報を用いた定量的な評価」「デジタル情報を交えた客観的な判断」が不可欠であると判断し、製品文字の視認性の数値化のアプローチを、製品開発プロセスの中に取り入れることを決断した。
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