同社は、複数の主要な医薬品の製造で扱いが難しい凍結乾燥機を用いている。凍結乾燥機は、故障などのトラブルが発生すると基準通りの製品を製造できなくなり、基準を満たさないロットの製品は廃棄され、利益の減少につながるリスクもある。
大阪工場では、2021年度に凍結乾燥機の一部として利用されているドライ真空ポンプなどの回転機器に振動センサーを導入し、状態監視を開始した。2022年10月には、ドライ真空ポンプの振動値が基準内での上限に近づき始めたことが振動センサーの測定データから確認された。そのため、生産計画に影響を与えない直近のメンテナンスタイミングで回転機器の軸受けを確認したところ、摩耗していることが判明した。
そこで、新品の軸受けに交換した結果、ドライ真空ポンプの振動値が正常域まで下がった。これらの結果から、振動センサーを用いた回転機器の集中監視が機器の健康状態をタイムリーに把握し、機器トラブルの予防や医薬品の安定供給に貢献することが分かった。
加えて、大阪工場では、製造設備の洗浄に使用する蒸留水の不足により、設備の停止や生産遅延が発生していた。
この解決策として、リアルタイム情報管理システムを用いて各設備の蒸留水使用量を即時的に可視化/分析できる仕組みを構築。さらに、手動での機器洗浄における蒸留水使用量のデータ収集を目的に配管にセンサーを配置し、得られたデータをクラウド上で可視化した。
これらの取り組みで取得したデータに基づき、設備、プロセス、使用時間帯の最適化やオペレーターの作業の標準化を行った結果、年間で45万リットル(l)以上の蒸留水を削減。これにより、200万l以上の上水と7900m3以上の都市ガスの削減にもつながり、環境負荷の低減と従業員のデータ活用意識の向上を実現した。
同様に、中国の天津工場でも、リアルタイムデータを活用した上水利用の可視化を行い、冷却塔における水の過剰使用を特定。これを踏まえて、冷却塔の冷却設備を改良し、従来と比べて20%の上水使用量の削減を達成した。
無菌製剤の製造は高度な無菌性環境下で行われるため、オペレーターは環境を悪化させない動作を習得する必要がある。この動作を習得するためのトレーニングは、無菌環境への入室方法、消毒、菌の飛散を防ぐ知識/スキルの習得など多岐にわたる。しかし、実際の医薬品製造で利用されている実環境でのトレーニングは困難で、トレーナーの負担が大きいのが課題となっている。
そこで、同社はVR技術を活用した無菌性環境のトレーニングを各工場に導入した。このトレーニングは、VR技術を活用することで、オペレーターが仮想空間で無菌性環境を体感しながら、実践的に学ぶことができる。これにより、学習頻度の確保が容易になり、短期間でも必要な知識とスキルを習得できるようになった。
石丸氏は「作業時間に関しては、これらを含むDXの取り組みで、2022年は年間5万時間、2023年は年間11万時間の削減を実現した」と効果を述べた。
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