東京大学らは、マスト細胞と線維芽細胞の相互作用により放出される細胞外小胞の膜上で起こる脂質代謝が、マスト細胞の成熟を制御し、アレルギーの感受性を決めることを発見した。
東京大学は2024年7月16日、マスト細胞と線維芽細胞の相互作用により放出される細胞外小胞の膜上で起こる脂質代謝が、線維芽細胞との細胞間コミュニケーションを介してマスト細胞の成熟を制御し、アレルギーの感受性を決めることを発見したと発表した。東京理科大学らとの共同研究による成果だ。
30種類以上の脂質代謝関連分子の欠損マウスを網羅的に表現型解析した結果、研究チームがこれまでに報告した、III型分泌性ホスホリパーゼA2(PLA2G3)、プロスタグランジンD2(PGD2)の合成酵素L-PGDSとその受容体DP1に加えて、リゾリン脂質の1種リゾホスファチジン酸(LPA)の受容体LPA1が欠損すると、マスト細胞の顆粒に含まれるアレルギー物質の量が減少し、アレルゲンに対する応答性が低下することを明らかにした。
また、LPA1受容体の制御下にある成熟関連分子の探索により、マスト細胞の成熟には、LPA1受容体の下流でインテグリンとそのリガンドによる細胞間の接着強化が必要であることが分かった。
マスト細胞と共培養した線維芽細胞では、LPA合成酵素のオートタキシン(ATX)とLPA1受容体、マスト細胞の成熟を促すインターロイキン33(IL-33)の発現が誘導された。他にも、L-PGDS発現はLPA1受容体を通じて上昇し、PGD2の産生が高まること、皮膚組織でこれらの鍵分子がマスト細胞と隣接する特定の線維芽細胞に発現していることを確認した。
さらに、脂質を網羅的に分析した結果から、PLA2G3欠損マウスの皮膚や細胞外小胞で、PLA2G3の代謝産物であるリゾリン脂質が野生型と比べて減少していることが明らかとなった。
PLA2G3を欠損したマスト細胞は、線維芽細胞と共培養しても成熟しなかったが、LPA1受容体作動薬や野生型細胞小胞を補充することで成熟が回復した。なお、この脂質経路は、ヒトのマスト細胞と線維芽細胞の共培養系でも確認され、LPA1受容体阻害薬によってヒトマスト細胞の成熟は阻害された。
今回の研究結果から、LPAが、線維芽細胞との細胞間コミュニケーションによりマスト細胞の成熟を制御する中心因子であることが明らかとなった。この脂質代謝経路はどのステップを阻害してもマスト細胞の成熟とアレルギー応答性が妨げられるため、同経路をターゲットとした創薬が、アレルギー疾患の予防治療法の開発につながる可能性がある。
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