アクセルペダルを踏んでからクルマが走り出すまで、何が起きている?いまさら聞けないクルマの仕組み(2)(1/2 ページ)

今回はアクセルペダルを踏んでから実際に自動車が走り出すまでの流れについて、パワープラントごとの基礎的な解説から、電子制御やモーター制御の概念的な話まで触れていきます。

» 2024年07月05日 09時30分 公開
[瀬戸鈴鹿MONOist]

 本連載では、自動車開発が専門外だという方々に向けて自動車に関する最近のアレコレを解説していきます。本連載を読んでいけば、自動車業界に関わる情報やニュースをより楽しめるようになる!……はずです。

 今回はアクセルペダルを踏んでから実際に自動車が走り出すまでの流れについて、パワープラントごとの基礎的な解説から、電子制御やモーター制御の概念的な話まで触れていきます。

出力制御の基本:オットーサイクル型の内燃機関

 現在、個人向けの自動車の中で最も普及しているガソリンエンジンから始めます。出力制御の基本は「空燃比一定で空気流量を制御することで出力制御する」というものです。実際のところは、空燃比を変更して熱効率を重視したり出力を重視したり場合分けしていますが、これは少し発展的な領域の事柄であるのでいったん脇に置きます。

 基本を成立させる原始的なガソリン機関は、スロットルバルブで吸気流量を制御して、ほぼそのまま霧吹きのような構造を取ったキャブレターにより燃焼室に燃料を吹き込む形を取ります。

写真の仕様ではキャブレターはスロットルバルブにより最大吸気量を制御し、バキュームピストンにより負圧(空燃比)制御を行う。本当に原始的なものはバキュームピストンすら無い[クリックで拡大] 出所:日立Astemo

 具体的な流れは機械式の場合、(1)アクセルペダルを踏み込みスロットル開度を増やす、(2)空気流量増加と同時に燃料流量増加、(3)エンジン出力増加、となります。

 現在の電子制御式の場合、(1)のアクセルペダル踏み込みからスロットル開度上昇までにECU(電子制御ユニット)の認知判断が入り、(2)の吸気流量増加から燃料流量増加にもECUの認知判断が入ります。機械式に対して踏む段階が2段増えて5段に増えているということです。

 つまり、(1)アクセルペダルを踏み込む、(2)ECUが最適なスロットル開度を決定してスロットル開度増やす、(3)空気流量増加、(4)空気流量増加に合わせてECUが最適な燃料流量をインジェクターに指示、(5)燃料流量増加に伴いエンジン出力増加、となります。

 ちなみに、キャブレターよりインジェクターの方が一般的に基本燃焼室へ近いので、上記はそれに合わせて区切りを変えています。では、なぜ手数の多い≒応答の遅い電子制御インジェクターが今の主流なのか。それは「排ガス規制をクリアするために必要だから」というのが答えです。

 キャブレターも、やろうとすれば複雑な空燃比制御も可能ですが、ある規模以上の複雑さからは電子制御式のインジェクターに対しコストパフォーマンスで負けてしまいます。故に、現在は量産車において電子制御式インジェクターに取って代わられています。電子制御は現在の排ガス規制をよりリーズナブルにクリアする技術として、必要不可欠な物なのです。

出力制御の基本:サバテサイクル型の内燃機関

燃料ごとの引火点と着火点
ガソリン ディーゼル(軽油)
引火点 −40℃ 50〜70℃
着火点 300℃ 250℃
引火点はガソリンの方が低く、大抵の場合は火種を接触させれば着火する。逆に軽油は着火点が低いため、圧縮による温度上昇で発火しやすい

 ディーゼルエンジンの出力制御は、基本的に「燃料流量を制御すること」により達成されます。先のガソリンエンジンと違って直接燃料の噴射量を制御するのです。

 制御方式の違いは着火方式に起因します。ガソリンはスパークプラグによる放電で着火するのに対し、ディーゼル機関は主運動系の圧縮圧力により自着火する方式です。これは燃料の引火点と着火点の差異から着火方式の違いが生まれ、そのまま機関の特徴につながっています。

「ディーゼルエンジンは燃費がいい」といわれるのはなぜ?

 バスやトラックといった商用車を考えたときに燃費に優れるディーゼルエンジンの話は欠かせません。

 「燃費に優れる」理由として、自着火現象で着火させられるが故に、ガソリンエンジンに対してかなり薄い空燃比でも燃焼させられる点が影響しています。その特徴が、そのまま燃費の良さにつながっているといっていいでしょう。また、空気の流量を制御しなくていい=スロットルバルブが存在しないことから、ガソリンエンジンよりターボチャージャーとの相性も良いといえます。

 燃焼方式としてはガソリンに対して優れているといえますが、弱点も存在します。三元触媒が使用できないことから排ガスの環境対応にコストがかかったり、燃焼安定化のために直噴化が必須だったり。さらには自着火させるために圧縮比を上げる必要があったりすることから、相対的にエンジンが重くなる=搭載する側にもそれなりのキャパシティーが求められます。

 制御は燃料ポンプの種類によって制御の流れが多少異なるので、今回は最も普及しているコモンレール方式を前提に考えます。この場合、ガソリンエンジンからスロットルバルブの部分を削除する形で説明できます。具体的には(1)アクセルペダルを踏み込む、(2)ECUが最適な燃料流量をインジェクターに指示、(3)燃料流量増加に伴いエンジン出力増加、となります。

 一見するとガソリンエンジンより制御が単純で応答性が高く見えますが、実際はEGRの流量制御のためにバルブ開き量を制御したり、そのバルブの駆動を待ってから燃料流量変動させたりするために実際はあまり応答性が変わらないといえます。

 なお、EGRは空気流量を制御できないディーゼルエンジンにおいて、疑似的に空気流量を減らすために使用されています。排気ガスの一部を吸気側に戻すことで新気の割合を減らし、過剰なリーン燃焼を避けることができるのです。

 このEGR、ふた昔ほど前まではディーゼルエンジンの技術でしたが、現在においては燃費向上や排気ガス規制対策目的でガソリンエンジンにも当たり前のように搭載されています。

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