MONOist スキル継承の効果を可視化するために、どのような仕組みが求められるでしょうか。
高木氏 まずはスキル継承の計画の進み具合を可視化する必要がある。コアなスキル全体に対して、継承計画を作成できているものが全体の何割に及ぶかを見える化する。
その後は計画の進捗率や遅延率の見える化が大事になる。進捗が遅れている活動があれば、その原因を特定し、分析していく。計画のゴールに対して今どのあたりにいるのかをチーム全体で明確にすることが大事だ。スキルによっては習得に数年単位かかるものも多く、その成果を把握しやすくしなければならない。
進捗の可視化ではデジタルデータ活用が大切だ。スキル保有者のデータと計画の進捗度を掛け合わせることで、「どの組織で計画遅延が生じているのか」が浮かび上がってくる。個人単位ではなく、組織や事業所単位で傾向を把握することで、スキル継承を組織的なマネジメントとして進められるようになる。
MONOist 「コアなスキル」かどうかを、どのように見極めればよいのでしょうか。
高木氏 何がコアなスキルかは企業によって異なるので一概に言えないが、まず数日教えれば習得できるようなスキルは、継承プロセスでの優先度を下げてよいだろう。
スキルの中には「この技術は○○さんにしかできない」といわれるものもあるが、実は属人化しているだけで、マニュアル化すれば他の人でもできることもある。これも優先度を下げていいだろう。
反対に、継承の優先度が高いスキルは何かというと、工場の操業や製品品質に大きな影響を与え得るトラブルの解決手法に関する知見などはその1つといえるだろう。頻繁に起こるわけではないので、対応可能な人が限られてしまうが、確実に伝えていかなければならないものだ。
この他、例えば溶接など、その企業にとって重要な技術だがまだ自動化が難しく、人手で担うことが求められるスキルなども優先度は高い。このように選別すると、膨大なスキルの中で、優先すべきものを一気に10%以下にまで絞り込めることもある。自動化や外注が可能なものは、適宜、必要性を吟味して対応していくべきだ。絞り込みにおいてはデータ活用が大事な役割を果たす。
MONOist 具体的にどのような点でデータが使えるのですか。
高木氏 有効性が一番分かりやすいのが、スキルを保有する人材の年齢のデータだ。熟練工が定年退職で会社を去れば、その人が持つスキルがリソースとして使えなくなる。何年後にどのようなスキルを持つ人が退職する可能性があるのか、データをつなげることで把握できれば、対策も打てる。スキルの消失リスクに応じて、継承の優先度を調整することもできるだろう。
MONOist スキルのデータ基盤整備はどう進めればよいでしょうか。
高木氏 いきなりデータを蓄積し始めると、粒度がまちまちでうまく活用できないということになりがちだ。まずはスキルデータの体系化に取り組むべきだ。
われわれは「スキルの切り口」と呼んでいるが、特定のスキルがどのカテゴリーに属し得るか、どのような枠組みの中に位置付けられるかを考える。業務プロセスやアウトプットの分類といった観点で切り分け、スキルデータを網羅的に体系化する。
組織全体で共通で機能し得るスキルも洗い出すべきだ。これまで製造業では、社員のスキルを現場ごとに独自のやり方で設定、管理していた。データが細分化し、スキル継承への活用を阻む障壁となっていた。
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