本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、徳島県板野郡上板町で藍染めの原料である藍の栽培から、すくもづくり、染色、製作までを一貫して手掛けるWatanabe'sの代表であり、藍師/染師を務める渡邉健太さんを取材しました。
本連載はパブリカが運営するWebメディア「ものづくり新聞」に掲載された記事を、一部編集した上で転載するものです。
ものづくり新聞は全国の中小製造業で働く人に注目し、その魅力を発信する記事を制作しています。本連載では、中小製造業の“いま”を紹介していきます。
古くから藍染めや染液の原料となる蒅(すくも)づくりが盛んな徳島県。中でも高品質なすくもは「阿波藍(あわあい)」と呼ばれ、現在もその伝統が引き継がれています。徳島県は地理と気候が藍作(あいさく)に適しており、室町時代から藍の栽培が盛んで、藍染めの生産量で全国シェアの大半を占めるほどです。
今回紹介するのは、徳島県板野郡上板町で藍染めの原料である藍の栽培から、すくもづくり、染色、製作までを一貫して手掛けるWatanabe's(ワタナベズ)です。代表であり、藍師/染師を務める渡邉健太さんにお話を伺いました。
ちなみに、藍師とは藍を栽培/収穫した後、藍を葉と茎に選別して、乾燥させた葉藍を発酵させてすくもを作る職人のことです。染師はすくもや灰汁(あく)などを用いて染液を作る藍建て(あいだて)を終えた後、染色する職人のことを意味します。
ものづくり新聞 渡邉さんが藍染めに出会ったきっかけを教えてください。
渡邉さん 藍染めとの出会いは、13年前にさかのぼります。当時まだ東京で働いていたのですが、あるとき藍染めのワークショップに参加したことが大きな転機となりました。染めた布が空気に触れることできれいな藍色に変わる様子にとても感動しました。そして同時に「この美しい藍色を自分の手で生み出してみたい!」という強い思いが湧き上がり、この業界に飛び込むことを即座に決めました。
とにかく藍染めのことをもっと知り、学ぶ必要があると考えたのですが、当時はファストファッションの全盛期でした。「今からこの業界に入るのは無謀だ」といわれたこともありました。実際、弟子入りさせてもらえる所もなく、学びたくても学べない状況が続き、途方に暮れていました。
そんなある日、徳島県の地域おこし協力隊の募集を発見したのです。「これだ!」と思い、すぐに仕事を退職して徳島県へ移住することにしました。念願だった藍染めの世界に飛び込んだ瞬間でした。ここから本格的に藍染めを学び始めることになったのです。
ものづくり新聞 工房の中に神棚をまつられていますが、どのような思いが込められているのでしょうか?
渡邉さん 藍染めはとても奥が深く、そのときの染液の発酵具合や原料の配合はもちろんのこと、染師の心の状態も仕上がりの色に大きく影響します。夫婦げんかの次の日に気持ちを引きずったまま染めると色がくすんだり、灰色っぽくなったりします。藍染めはそれほど繊細なものなので、毎朝一日の始まりに感謝の祈りをささげ、自分の気持ちをリセットするよう心掛けています。
また、藍染めというのは人の力だけで形にできるものではありません。藍から染液を作るには発酵の力が欠かせません。すくもの原料である藍を育てるには畑を耕し、天候の力を借りる必要があります。
気温の見極めも非常に重要です。昨年(2024年)は気温が下がる時期が遅かったので、すくもづくりの開始を例年よりも遅らせました。日々自然の力に感謝して、調和し、藍と向き合う際の心を整えることで初めて良い色が出せるのだと思います。
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