ものづくり新聞 地元の農家や企業とのつながりも大切にされているそうですね?
渡邉さん 藍の栽培の一部を周辺の農家の皆さんに委託しています。また単にお願いするだけでなく、農家の皆さんの負担を少しでも減らすために、苗を提供してすぐに植えられる状態にしたり、刈り取りは自社で請け負ったりしています。
堆肥についても徳島のブランド豚である金時豚(きんときぶた)を飼育している近隣の生産者さん(NOUDA)の堆肥舎で作られる発酵堆肥を使っています。堆肥はそれなりにコストがかかりますが、その分、収穫物の量や質が違ってきます。作った堆肥は当社の畑だけでなく、周辺の農家の皆さんにも使ってもらっています。とても好評です。
また、私自身が苦労した経験から、藍染めを学べる場所として工房を開放し、体験会や講習会を行っています。藍染め体験に興味のある近隣住民の方を工房に招くこともあります。
Watanabe'sでは地元企業とのコラボレーションを通じ、さまざまなアイテムに藍染めを施しています。例えば、木を薄くスライスしたツキ板を手掛ける森工芸と共同で食器を商品化しています。カエデ科のホワイトシカモアという木が使用されており、木目と垂直に交差する光沢模様が特徴的です。美しい光沢模様が円形に広がる光線貼りにより、光の当たり具合によって異なる表情を創り出します。家具の産地であり、木工メーカーが多い徳島ならではの一品に仕上がっています。
――Watanabe'sでは染液を用いた染色だけでなく、染液の主原料であるすくもづくりや、すくもの原料である藍の栽培も自社で手掛けています。年間の気候や気温の変化に合わせながら、土づくり、藍の収穫、すくもづくりへと工程が進んでいきます。すくもは乾燥させることで長期保存でき、年間を通して藍建て/染色を行えます。
――工房近くの別の建屋で、最近導入したばかりだという収穫機械とすくもづくりの工程を見学させてもらいました。
渡邉さん 昨年(2024年)のすくもの生産量は40俵ほどになりました。1俵当たり約56kgで、乾燥させるとおよそ30kgになります。市場では1俵当たり15万円前後で取引されるため、40俵だと単純計算で約600万円になりますが、そこから固定費や機械を動かすための燃料費が差し引かれるため、藍の栽培のみで事業を継続することは現実的とはいえません。
しかし、自社で染色工程を行うことで、1俵当たり200万円ほどの価値を生み出すことができます。40俵なら約8000万円の価値に相当します。
藍師がもうかりにくいという産業形態は、江戸時代から現在に至るまで変わっていません。そのため、藍師になる人は年々減少傾向にあります。昨今の染織ブームによって染師自体は増えていますが、染液の原料であるすくもの供給が追い付いていない状態です。
そうした背景もあり、われわれは自社で藍の栽培から行っています。ただし、全て自分たちだけで行うには限界があります。そんなこともあって、最近新しい収穫機械を導入したのです。おかげで従来2カ月かかっていた収穫作業を10日に短縮できました。
――すくもづくりに欠かせない、藍を発酵させる工程も見学できました。
渡邉さん 3週間ほど前から少しずつ葉を追加しながら、水と空気と熱で発酵させてすくもを作っています。現在(取材時)、熱は60℃くらいですが、1カ月後には80℃くらいになります。堆肥化する過程で白いカビが発生したら、発酵を促すために全体をほぐしてかき混ぜます。今はマイルドな発酵臭ですが、あと1カ月もすれば鼻を突く強いアンモニア臭が漂ってきます。
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