MONOist 継続的な取り組みにするには、個人の習熟度を客観的に評価する仕組みも必要かと思います。
高木氏 習熟度の判定はこれまで現場ごと、場合によっては個々人で行われてきた。さらに評価の設計も、3段階評価だったり、10段階評価だったりとバラバラだった。ここをしっかり統合していく必要がある。
習熟度の評価指標を設計する上では、具体性のある、定量的な基準を設けなければならない。個々人が曖昧な基準で「この人は上級者」「この人はまだ中級者」などと評価していると、同じスキル評価のはずなのに、実際の能力にばらつきが出てしまうという事態になる。
基準としては、業務の経験回数などを指標にするのが分かりやすいだろう。その上で、評価のためにはスキル関連のデジタルデータを活用することが大事になる。例えば、溶接の技能が「レベル1」の技術者が「レベル2」にステップアップするには、特定の作業を何回こなしたか、何年間業務に従事したかを把握する必要がある。
こうした個々人のデータを一元的に管理する基盤を作り、同一評価の技術者のレベル感がしっかりそろっている、という状況を作る。最近では、製造業の中でもこの重要性が徐々に理解され始めているように感じる。
また、スキルを十分に職場で活用するには、それを基礎づける教育や、公的/社内資格が重要なことが少なくない。だが、スキルと教育、知識、資格といったものが互いに持つ関係性が明文化されていないケースもある。そうした条件付けを明確にする必要もあるだろう。
山川氏 習熟度を評価する仕組みは重要だが、人事評価制度の改革にまで組み込むとなると、なかなか取り組みがセンシティブなものになる。制度改革に着手しているところもないことはないのだが、現時点ではあくまで構想としては持っている、という企業が多い。
MONOist デジタルデータを活用する上では、データ入力など現場の協力も不可欠になるかと思います。現場を巻き込みつつスキル継承の取り組みを定着化させるには、どうすればよいでしょうか。
高木氏 1ついえるのは、スキル関連のデータ基盤やシステムを単体で運用するのではなく、製造プロセスのシステムなど、他システムと連携するところまで視野に入れて考えるべきだということだ。
ある企業では、製造実行システム(MES)と作業者の資格やスキルのデータを連携させることで、作業に必要な特定の資格やスキルがない技術者が業務をしようとすることを防ぐシステムを構築している。このように、現場にとって必要な仕組みが何かを見極めて、それに応えるものを導入することが大事だ。
山川氏 継承プロセスの継続には、スキルデータを最新のものに更新していく必要がある。このためにも、私は継承のプロセスは「称賛とルール化」がないとうまく回らない、と考えている。「称賛」というのは、育成する側とされる側を両方“褒める”ことだ。
これまで製造業の人材育成は、育てる側も育てられる側も「やって当たり前」という雰囲気があり、育成者が育てただけで褒められることは少なかったのではないか。スキルのデジタルデータが集まれば、スキル継承全体のどれくらいを自身の育成で進めることができた、こうしたスキルまで習得させることができた、など進捗を可視化できる。これをしっかり評価することで、データ活用に対する育成者のモチベーションを高められる。
一方で、ある程度の強制力を持ってシステムを運用していくことも大事だ。これが「ルール化」に当たる。
事業所の技術教育を担う部門で話を聞いていると、スキルデータ活用の重要性に対する意識と、現状に対する危機感は本当に高まっていると感じる。一方で、実は最近、経営層や管理職だけでなくメンバー層からも、スキルデータの可視化を好ましく思っているという話を聞く。職場全体で必要とされているスキルを網羅的に見られる上、自身の先のキャリアを見通す上でも役立つという意見だ。
スキルを軸に上長とキャリアについて話す機会ができたという話も聞く。スキルデータの整備は、現場の幅広い人材から価値を認めてもらえる取り組みだと思う。
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