東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。著者の研究グループが開発した、連続繊維を自由に湾曲させて成形可能な新しい3Dプリンタについて解説します。
複合材3Dプリンタ市場のリサーチのレポートには、機種別のシェアを扱っているもの[参考文献1]があります。これによれば、Markforgedの3Dプリンタのシェアは60%で、4%が中国国内で市販されているCombotです。これら以外の36%は、産業用ロボットの先端にプリントヘッドが設置されているタイプを含めた自作品などとなっています。データは無いですが、自作を除くと、デスクトップタイプの複合材3Dプリンタの90%以上がMarkforged製品ではないかと推察しています。それほどMarkforgedのデスクトップ型複合材3Dプリンタは市場に衝撃を与えた商品です。
これほど成功した要因には以下の2点が挙げられると思います。
特に(2)は重要で、本来は十分に異方性を考慮して設計しなければならない連続繊維の複合材を何も考えずに成形できるという利点があります。Markforgedの複合材3Dプリンタの構造を簡単に図解したものを図1に示します。
Markforgedの複合材3Dプリンタは、連続繊維フィラメントと樹脂あるいは短繊維複合材フィラメントの2種類のフィラメント用います。2つのフィラメントは2つの異なるノズルから印刷されます。連続繊維側は繊維を切断する必要があるので、カッターがついています(Markforgedの解説にご興味がある方は編集部宛にご連絡ください)。
さて、Markforgedの複合材3Dプリンタでは連続繊維と樹脂のフィラメントは別でノズルも別です。このため、連続繊維のパス間隔を場所によって変えることができません。間に隙間ができてしまうためです。もちろん、大きな隙間は後から樹脂フィラメントで埋められます。この構造のために、等間隔で連続繊維を並べることしかできません。せっかくの3Dプリンタなのに、自由に連続繊維を湾曲させて並べられないのです。繊維を湾曲させることで強度上昇が得られるという研究は既にあります[参考文献2]。
しかし、樹脂ノズルと連測繊維ノズルが分離している以上、連続繊維を印刷しながら樹脂射出量を変えることはできません。Markforgedの複合材3Dプリンタは初心者でも連続繊維を使えるという大きな利点を有する反面、このように、自由度がないという欠点があります。
そこで、著者の研究室では連続繊維ノズルと樹脂ノズルを同軸上に設置する3Dプリンタを設計しました[参考文献3〜4]。現時点では、樹脂材料としてペレットを使うタイプとフィラメントを使用するタイプの2種類を開発していますが、ここではペレットを使用するタイプ(以下、新型複合材3Dプリンタ)をご紹介します。ペレットを使用することで、市販されていない樹脂材料が使えます。例えば、高い熱伝導性を有するピッチ系炭素繊維複合材やカーボンナノチューブ複合材などです[参考文献5]。さらに、フィラメントと比較して安価で、押し出し力の調整がしやすいといった利点もあります。コンクリートなどの3Dプリントも可能です。
しかしながら、ペレットを利用するタイプの複合材3Dプリンタは一般的に、ペレットを溶融して押し出す際にスクリューを使うことが問題となります。その理由は連続繊維をスクリューで押し出すと連続繊維が切断されてしまうからです。連続繊維押し出し量と樹脂押し出し量を変えることが困難という課題もあります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.