日産自動車は2024年5月31日、一部報道を受けて実施した社内に対する調査結果を発表した。日産自動車は、2024年3月に公正取引委員会から下請法違反で勧告を受けた後も下請代金の減額を続けている、とテレビ番組で報じられていた。
調査は長島・大野・常松法律事務所が担当し、報道の真偽を確かめる目的で実施した。テレビ番組に登場したサプライヤーA社とB社の特定は行わなかった。期間は2024年5月11〜31日。調査の結果、法令違反は確認されなかったとしている。
報道では2024年4月付の見積書やメールに言及していたため、日産自動車の購買担当260人の4月分のメールをチェックした。テレビ番組で触れた見積書やメールが確認されたため関係者37人に述べ43回のヒアリングを行ったという。A社に関する報道内容は次の通り。
A社は日産自動車が作成したフォーマットに従って見積書を提出しなければならなかった。フォーマットには日産自動車が指定する原価低減率が記載されており、計算式も設定されていた。A社が正規価格を入力すると、数パーセントから数十パーセントの原価低減率相当額が控除された金額が表示された。A社が日産自動車に提出した書類には「個別の原価低減はA社が依頼したものだ」とする記載が当初からあり、これは日産自動車が書いたものだった。
調査の結果、計算式と個別の原価低減に関する記載がある見積書のフォーマットが利用されていることが確認された。フォーマットを利用するのは試作品のプレス部品を製造する数社との取引のみだったとしている。
このフォーマットは2015年から利用されてきた。当時、一品一葉の試作品に対し、価格の妥当性や一貫性を担保する目的で、日産自動車とサプライヤーは原単位コストテーブルによって算出される単価の使用に合意。試作品のプレス部品は単価を算定することが難しかったため、個別の事情や難度に応じて単価を算定するコストテーブルが必要だったという。
2016〜2019年に日産自動車と各サプライヤーはフォーマットから導き出す査定値を基準に毎年6%の原価低減の実施に合意し、フォーマット上にその計算式を設定することとした。2019年以降は、サプライヤーとの協議で原価低減率の加算は行われなかったが、計算式が設定されたフォーマットの利用は継続することとなった。
その結果、2024年時点でも2015年に合意した原単位コストテーブルに基づく査定値と、これに所定の原価低減を行うことで見積もり金額が算出される仕組みになっていた。サプライヤーがフォーマットに入力するのはサプライヤーによる見積金額ではなく、2015年に合意したコストテーブルで算出される査定値だという。
原単位コストテーブルや個別の原価低減に関する交渉権において、問題は確認されていないとしている。また、報道では言及されなかった文言も含めると、日産自動車とサプライヤーの双方で原価低減に取り組んでいることを示した書面になっているという。
別のサプライヤーB社に関する続報もあった。内容は次の通り。
B社は、日産自動車の担当者が納得する水準の価格になるまで見積書の再提出が複数回求められた。担当者は「長い付き合いだからと言っていつまでも仕事がもらえると思うな」と告げる。原価低減率は30%、ひどいときには50%にもなる。
調査の結果、設備手配の調達プロセスにおいて、日産自動車の購買業務の委託先がサプライヤーに対して日産自動車の目標金額を示すメールを送っていたことが確認されている。B社宛のメールと同等の体裁が見つかっており、B社のベストプライスでの最終見積書を提出する依頼文に、日産自動車の目標金額が参考として添えられていたという。
こうしたメールは、日産自動車の購買業務の委託先が、日産自動車の調達依頼部門による見積査定結果を踏まえて一次見積もりを提出したサプライヤーに送るもので、業務手順書に基づいている。調査では、こうしたメールを送るのは2回までだったと証言を得ている。メールで言及された金額は、日産自動車の調達部門が過去の案件などを参考に査定しており、一定の根拠のある数字だとしている。
目標金額を下回る提案がなければそのサプライヤーとの取引が成立しないという運用ではなかったとしている。メールで示した目標金額よりも最終的な契約金額が高くなる場合もあった。また、設備手配取引での原価低減率が30%を超える場合が多数だという状況ではなかったとしている。日産自動車や委託先がサプライヤーに対して威圧的なコミュニケーションをとった事実も確認されていないという。
日産自動車 社長の内田誠氏は「試作の事前見積書やメールでの誤解を招く表記は直ちに運用を廃止した」とコメントした。また、サプライヤーから不満の声が上がっていることは事実として受け止め、「適正な取引が実現できるよう取り組みを強化し、不満の声がなくなるよう努力する」(内田氏)と述べた。
具体的な取り組みとしては、インフレによるコスト負担を軽減する対応をスピーディーに進められるよう、社内プロセスを見直す。割戻金制度の全面的な廃止に加えて、「われわれが取引先の現場に入らせていただきながら、一緒にアイデアを出し合い、競争力を高める」(内田氏)という取り組みも行う。開発費の別建て払い、台数の変動に伴うサプライヤーの経済的負担の軽減も充実させる。
2024年4月には購買のコンプライアンス部門が発足しているが、今回の報道を受けてさまざまな課題に網羅的に対応できる新組織を追加するなど体制強化も図る。
2024年6月には社長直轄の新組織を立ち上げる。法令違反の疑いなどがある場合に匿名でも相談、通報できるホットラインを外部に設置する。モノづくり部門に関わる担当者から成るパートナーシップ改革推進室も設け、積極的に取引先に足を運びながら意見を社内に速やかにフィードバックできるようにする。各部署の通常の窓口以外にもルートを新設することで取引先の状況把握などにつなげ、法令順守を一層徹底する考えだ。
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