最後に、今後のトレンドについてお話します。図4は、過去にさかのぼって、設計者が何を根拠にして仕様決めの判断をしてきたかという推移を、経験〜実験〜シミュレーション〜データサイエンスの割合変化を想定してみた図です。割合推移は定量的な根拠に基づいたものではないことはご容赦ください。
X軸は年代、Y軸は適用割合になっており、シミュレーションが活発に利用されてきた1980年代から開始しています。それ以前の1970年代までは、経験(属人的ノウハウ)と実験を設計の判断根拠としてきたわけですが、1980年代以降、実験に代えてシミュレーションが使われ、熟練者ノウハウが減少してきたので、相対的にシミュレーションを判断根拠とする割合が急速に増えてきます。
2010年代ごろから、機械学習(近似モデル〜代理モデル)を活用する場面が増えてきて、その流れが2020年代になってさらに強まっていることは、皆さんもよくご存じのことでしょう。今後は、設計の中でデータサイエンスをどこまで使いこなすかで、設計の品質もスピードも大きな差が出てくるでしょう。
シミュレーションはそれ自体の価値に加え、データサイエンス的活用をするためのデータ生成器としての役割が大きくなります。データ生成器とは、一言でいうと“大規模な最適設計/実験計画法を駆使することで生成されたデータを再利用するために蓄積する役割のこと”です。それにより、品質の高いデータサイエンス活用が可能となり、設計の品質とスピードが劇的に向上するという事態が起こると考えられます。このデータ生成器の基本技術が、本連載で何度も述べてきたPIDO、SPDMなのですが、同時に、Simulation Governance診断の中で最も平均値が低かったのが、PIDOとSPDMの活用レベルだったということもぜひ思い出してください。
筆者は占いをしているわけではありませんが、少なくともPIDO、SPDM技術を徹底的に使いこなさない限りは、図4の右下に記述したように、“日本のデータサイエンス適用は海外から10年遅れてしまうリスクがある”と考えています。そうならないためにも、まさに、今すぐに、Simulation Governance向上活動に取り組まなければなりません。このことを強く訴え、本連載の結語とさせていただきます。
今回のまとめに関連して、毎度参照している「デザインとシミュレーションを語る」ブログの該当する箇所は、下記となります。あらためてお読みいただけると幸いです。
なじみづらい概念や数字が多く、分かりにくかったのではないか、難しく書き過ぎているのではないかと危惧しながらも、読者の皆さんのことを想像しながら何とか最後まで執筆することができました。長期間、本連載にお付き合いくださり本当にありがとうございました。Simulation Governanceにご興味のある方は、本連載を読んだ旨をコメントいただき、紹介欄の筆者メールアドレスまでぜひご連絡ください。 (連載完)
最後に筆者からのお願いです。本稿をご覧いただいた読者の皆さまからのご意見やご感想などのフィードバックをいただけると大変励みになります。無記名での簡単なアンケートになりますのでぜひご協力ください。
工藤 啓治(くどう けいじ)
スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、2024年1月まで、ダッソー・システムズに所属。現在、個人コンサルタントとして業務委託に従事。40年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。
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