PAROMA-MEDでは、以下のような機能をサポートするとしている。
PAROMA-MEDにおいて、効率性や拡張性は、クラウドネイティブなソリューションの実装により保証される一方、将来の採用やさらなる開発は、オープンソースへの実装により保証される。また、このプロジェクトでは、アプリケーションの構築および配布システム(標準規格化、法的ステークホルダーを含む)や社会環境に対するインパクトを創出し、献身的な活動やコミュニケーションチャネルを通じて、インパクトを管理するとしている。なおユースケースとしては、1)心室頻拍(VT)アブレーション、2)冠動脈疾患の2つを挙げている。
(1)〜(4)の4つのプライバシー強化技術プロジェクトに共通するのは、ENCRYPTやTRUMPETではがん治療、HARPOCRATESでは睡眠治療、PAROMA-MEDでは循環器治療と、医療科学研究の具体的なユースケースをカバーしている点だ。
通常、ホライズン・ヨーロッパの各研究プログラムでは、オープンサイエンス原則に従って、科学論文や研究データのオープン化を行っている。EUも、オープンサイエンス推進の観点から、論文掲載プラットフォームの「オープンリサーチヨーロッパ」(関連情報)や、研究データ共有のための「欧州オープンサイエンスクラウド(EOSC)」(関連情報)を構築/運用している。保健医療データの2次利用を行う医療機器企業は、このような情報ソースを通じて、欧州発プライバシー強化技術および関連するユースケースの最新動向についてウォッチする必要がある。
2024年、EUでは、本連載第83回で触れた「欧州保健データスペース(EHDS)」(関連情報)および第102回で触れた「人工知能(AI)法」(関連情報)に関して、EU理事会と欧州議会の間で合意が成立し、本格施行に向けた最終作業が進んでいる。
2024年3月5日、デンマークのデータ保護庁(Datatilsynet)は、AI向けのレギュラトリーサンドボックスを設置したことを発表した(関連情報)。このサンドボックスは、企業や政府機関に対して、以下のようなものを提供するとしている。
その後、欧州委員会は、2024年4月23日、AIおよび量子コンピュータ技術を対象とした総額1億1200万ユーロ超の研究開発プログラムであるホライズン・ヨーロッパの公募を発表した(関連情報)。これには、新たなデータモダリティの統合と、そのケーパビリティの拡張によって、大規模AIモデルを進化させるための5000万ユーロの基金が含まれている。今回の公募では、幅広い領域のタスクやドメインに適応しながら、テキスト、イメージ、音声、動画、3D表現など、マルチモーダルデータを加工/生成できるような生成AIの開発を目的としている。この基金により、強力なだけでなく、特にAI法の観点から欧州の価値や倫理ガイドラインを順守した生成AIシステムの構築において欧州がリードすることを目指している。
さらに2024年4月30日、EUと日本のデジタル庁、総務省、経済産業省は「第2回日・EUデジタルパートナーシップ閣僚級会合」を開催し、コアデジタル技術(例:AI、5G/6G、半導体、ハイパフォーマンスコンピューティング、量子技術)における一層の協力関係や、データプラットフォーム経済、海底ケーブル、eID、サイバーセキュリティにおける協力関係の強化で合意したことを発表した(関連情報)。
このように欧州/日本間のデジタル連携への追い風が吹く中、日本の健康医療エコシステムが、プライバシー強化技術の社会実装において、どのように貢献できるのかが問われている。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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