電子海図や自動操舵、救助用ビーコン……小型船舶の最新事情：船も「CASE」（1/3 ページ）

「ジャパンインターナショナルボートショー2024」が開催された。この記事では、パシフィコ横浜会場の展示から、電子海図や自動操船関連機器、そして、陸とは異なる海洋での利用を考慮したデバイスを取り上げる。

[長浜和也，MONOist]

　「ジャパンインターナショナルボートショー2024」（以下ボートショー2024）が、パシフィコ横浜と横浜ベイサイドマリーナ、八景島マリーナにて2024年3月21〜24日に開催された（オンラインでは5月31日まで開催している）。

　ボートショーは主に小型船舶向け（ちなみに一級小型船舶操縦士で操船できるのは全長24m未満、もしくは、総トン数20t未満）の製品やサービスを紹介するイベントだ。設置面積や消費電力、乗員数、そして購入価格や維持費用などの面で、より大きな船である「本船」と小型船舶は条件や使用環境が異なる。ボートショーでは小型船舶に適した舶用機器やサービスが紹介されている。

　この記事では、パシフィコ横浜会場の展示から、電子海図や自動操船関連機器、そして、陸とは異なる海洋での利用を考慮したデバイスを取り上げる。

航海用電子参考図の最新版、指定した範囲内の障害物の警告機能が実装

　日本水路協会では、同協会が発行している航海用電子参考図「new pec」（ニューペック：New Electronic Reference Chart）シリーズで2023年10月にリリースされた「new pec smart／iOS版」最新バージョンを訴求していた。一般向け展示会では初めての登場となる。

海図をはじめとする水路情報提供と出版を手掛ける日本水路協会はnew pec smartの最新バージョンを訴求していた［クリックで拡大］

　最新バージョンでは距離を示す線の強調表示機能をサポートした他、ユーザーがUIのスライダーを用いて距離を設定することで、その範囲内で他船や障害物が確認されると警告する機能が実装された。警告は段階的に発することができ、設定した1.5倍の距離から接近しつつあることを注意喚起する警告を発することも可能だ。また、この機能を有効にするとバッテリーの消費量が多くなることから、そのことを留意するようにメッセージを表示するなど、バッテリー容量に制約のある小型船舶での利用を考慮している。

最新バージョンでは設定した範囲内に衝突の危険がある対象物が接近したときに警告を発する機能が導入された［クリックで拡大］

　new pec smartの開発を手掛けるマップル・オン取締役の高澤宏光氏は、電子海図を利用するデバイス（現在、その多くはタブレットやスマートフォンに移行している）のディスプレイサイズについて、アプリが手軽に使えることを重視してiPhoneや小さめのiPadでの使用を想定しており、UIのデザインはこの基準に合わせて調整されていると語っている。

　また、最近、自分の周囲にいる他船動静を把握するため、new pec smartでもAIS（自動船舶識別装置：Automatic Identification System）の情報を表示できるようになった。このAISについては、東洋信号通信所（その名称から公的機関と思われるかもしれないが、港湾管理関連を中心とした情報サービスソリューションを主な事業とする開発企業だ）が提供するデータをインターネットで配信しているため、公衆移動体通信網の圏内でないと利用できず、また、そのタイムラグは最大30秒ほどあると説明する。

　なお、高澤氏によると、以前AISレシーバー（AISデータをVHFによって本船からダイレクトに受信する）とnew pec smartを導入したデバイスを無線LANで接続し、リアルタイムで受信したAISデータを表示する機能についても取り組んでいたことがあり、技術的には実現可能だが、開発環境の事情で現在は“ペンディング”となっていることを明かしている。

　new pec smartにはAndroid版もあるが、iOS版相当の最新バージョンについては作業に取り掛かっているものの、リリース時期は未定となっている。iOS版を優先して開発しているのは、ユーザーの7割以上がiOS版を使っているためだと高澤氏は説明している。マップル・オンの開発チームはiOSとAndroidの開発リソースを共有していて、両プラットフォームでの機能の統一を目指している。しかし、Androidデバイスの多様性とスペックの幅広さが課題となっているため、新機能はまずiOS版で開発され、ユーザーのフィードバックを受けた後にAndroidに移行するとのことだ。