玉川氏はこのインクリメンタル収益とリカーリング収益から成る「IoT SaaSビジネスモデル」がソラコムの強みになると強調する。ソラコムは、同社のWebサイトからSIMカード1枚、デバイス1つから調達できる「セルフサービス」を特徴としており、IoT製品/サービスの開発プロジェクトを立ち上げる際に極めて利用しやすい。そこから、PoC(概念実証)におけるプロトタイプ製作、商用サービス開始、事業拡大、グローバルへの拡大や新機種導入という形で簡単にスケールさせられる。「開発プロジェクトのステージが進むごとにSIMを追加的に購入していただくことでインクリメンタル収益が増加する。そして、インクリメンタル収益が増えるほどリカーリング収益が増えて右肩上がりになっていく」(同氏)という。
実際に、2020年からの四半期売上高の推移を見ると、インクリメンタル収益はSIMの納入タイミングの影響もあって上下するものの、リカーリング収益は蓄積して着実に右肩上がりになっていることが分かる。足元では売上高全体の70%がリカーリング収益になっている。このリカーリング収益を支えているのが、通信のモバイルコアシステムをクラウド上に構築できている点だ。多くの通信事業者が高額なハードウェアとデータセンターを用いているのに対して「設備投資を抑えてコスト効率高く事業を展開できる」(玉川氏)という。また、ソフトウェアベースのシステムなので、顧客からの要望を短期間で反映できる点もメリットになる。先述した22のクラウドサービスは、そのようにして生まれてきたものだ。近年では、生成AIを活用した機能も実装している。
今後の成長戦略としては「グローバル展開に向けた販売体制の強化」「大型案件の安定的な獲得」「戦略的アライアンスの推進」の3つを挙げた。グローバル展開については、既に180カ国で利用可能になっていることに加えて、米国と英国にオフィスを構えて事業展開をさらに拡大する準備は整っている。玉川氏は「現在、海外売上高比率は約3分の1だが、米国や欧州は日本と比べてIoT市場は数倍の規模があり、これをしっかり取っていく」と意気込む。
SIM1枚から始められるセルフサービスを強みとするソラコムだが、大型案件を獲得するチームも出来上がりつつある。既に100万台以上の納入実績があるニチガスの事例だけでなく「2024年は、製造業、モビリティ、空調機などで大型案件を契約できている。この後実装が進めば、より大きなリカーリング収益が入ってくることになるだろう」(玉川氏)。そして、戦略的アライアンスでは、コネクテッドカーと通信事業者向けプラットフォーム提供という2つのエリアを重視して進めていく方針だ。コネクテッドカーについては、トヨタ自動車のコネクテッドカーのインフラを支えるKDDIとの協業に加えて、2024年2月にスズキとモビリティサービス分野におけるIoT先進技術の活用に向けた合意書を締結している。通信事業者向けプラットフォーム提供では、これまでKDDIグループにソラコムの技術を提供する形で新たなIoTプラットフォームの構築を進めてきたが、これにのっとってソラコムのIoTプラットフォームを通信事業者にOEM提供することを検討している。
玉川氏は「今回のIPOはゴールではなくスタートラインだ。IoTやAIといったテクノロジーは、今後のデータ活用社会において水や電気のようなインフラになる。社会の公器として孫の世代まで誇れる会社を作っていきたい。そして、日本発のグローバルIoTプラットフォームとなり、テクノロジーのイノベーションを続けて世界をより良い場所にしていくことに貢献し続けたい」と述べている。
なお会見後半には、KDDI 代表取締役社長の高(正確には“はしご高”)橋誠氏がゲストとして登壇した。高橋氏は「今回スイングバイIPOという形で上場できたのは、玉川氏が高い理想を持ち、KDDIグループ傘下でも理想を追い求め、次のステップに行きたいと考えていたことが最も大きな要因になるだろう」と語る。
スイングバイIPOを提案されたときはKDDIの取締役会でも課題が指摘されたものの「グローバルを目指す玉川氏として、グローバルで優秀な技術者を獲得するにはIPOという道筋を提示する必要があった。そういった高い理想に向かっていくのであれば、KDDIとしてはスイングバイIPOを支援していくべきだろうと判断した」(高橋氏)という。また、同氏は「KDDIにとっても、コネクテッドカーなどを事業展開していく上で、安定的に拡大したいという顧客と、早期の立ち上げと拡大を求める顧客があり、KDDIとソラコムによって両方の要望をカバーできることは大きなプラスになる」と両社が今後も緊密に連携していく方針を示唆した。
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