ソラコムは年次ユーザーイベント「Discovery 2020 ONLINE」において、KDDIの5Gネットワークを利用したMVNO事業を2020年度内に開始することや、MECの実証実験をKDDIと共同で実証していること、さらなる事業拡大に向けてKDDIグループ傘下でのIPOを検討していることなどを発表した。
ソラコムは2020年7月14日、オンラインで開催した年次ユーザーイベント「Discovery 2020 ONLINE」において、KDDIの5Gネットワークを利用したMVNO事業を2020年度内に開始することや、Amazon Web Services(AWS)が提供するエッジコンピューティングストレージサービス「AWS Wavelength」を用いた5GのMEC(Multi-access Edge Computing)の実証実験をKDDIと共同で実証していること、さらなる事業拡大に向けてKDDIグループ傘下でのIPO(新規株式公開)を検討していることなどを発表した。
同イベントの冒頭で行った、ソラコム 社長の玉川憲氏とKDDI 社長の髙橋誠氏による特別対談「New Normal 加速するDX」の中で明らかにされた。対談の中で両氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により社会環境の変革が求められる中で、IoT(モノのインターネット)をはじめとする通信の需要が拡大するとともに、日本政府が目指す「Society 5.0」の実現に必要なデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進でも通信が重要な役割を果たしていることを強調した。
ソラコムは2015年9月からIoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air」を開始。2017年8月にKDDIグループの傘下に入ってからは、2018年9月にLPWA(低消費電力広域)ネットワークの1つであるLTE-Mへの対応や、2020年3月にKDDIが提供する「IoT世界基盤」でソラコムのソリューションが利用可能になるなど、KDDIのアセットを活用してサービスを拡充させてきた。今回発表したソラコムの5G対応も、両社が共同して進めてきたこれまでの取り組みの一環となる。
髙橋氏は「多くのコンシューマーに5Gを利用していただくことによって、5Gネットワークを全国に広げることができる。そしてその広がった5GネットワークをIoTで活用してもらいたい。KDDIとしてはIoTの通信料金でもうけるつもりはない。IoTの上に載る付加価値の可能性こそが無限大であり、この可能性を広げられるソラコムにいち早く5Gを使ってもらうことにした」と語る。
玉川氏は、5Gによって可能性を広げる取り組みの1つとして、KDDI au 5G検証センターで実施しているAWS Wavelengthを用いたMECの実証実験を紹介した。「たとえ5Gで低遅延の通信ができるといっても、収集したデータをAWSなどのクラウドに送って処理する際に発生する遅延時間は短縮できない。これらをデバイス側により近い位置にある基地局などで行うことで、5Gの低遅延性能を生かした超低遅延を実現しようというのがMECのコンセプトだ。今回の実証実験では、KDDI au 5G検証センター内のパイロットのAWS Wavelengthゾーンにソラコムのクラウド型コアネットワークを実装して実施している」(同氏)という。
さらに玉川氏は「MECの活用事例としては自動車や建設機械などの自動運転などが挙げられるが、もっと“異端な”アイデアが出てくるのではないか」と述べ、髙橋氏も「ワクワクする取り組みであり、MECにどんな活用法があるかについてユーザーの皆さんからアイデアをいただきたい」と意気込みを示す。
ソラコムとKDDIの今後の展開としては「グローバル」がキーワードになるという。ソラコムは、KDDIグループに入った時点でのSORACOM Airの契約数は8万回線にすぎなかったが、現在はソースネクストのAI翻訳機「ポケトーク」やニチガスのスマートメーターなどの大口契約もあり200万回線を突破している。一方のKDDIも法人IoTの契約数は1200万回線を超えた。
髙橋氏は「製造業などの法人企業が顧客とつながる上でIoTなどの通信は重要だ。特に、グローバルに均一なサービスを提供するには、通信もグローバルでなければならないし、そこでKDDIのサービスが役立っている」と述べる。
玉川氏は「ソラコムが創業からのビジョンとして掲げているのが『グローバルコネクティビティで新しい産業を創る』だ。KDDIグループに入ることで、このビジョンの実現に向けた良いポジションが得られつつあり、現在はソラコムのグローバルIoT SIMは140カ国以上で利用できるようになっている。さらに、グローバル市場のグローバルの顧客にソラコムのサービスを使ってもらえるように、米国と英国に拠点を構え人材も採用している。そこで求められる業界をリードするグローバル水準の人材獲得と、ともにグローバル展開するパートナー企業の拡大を果たして、真の意味でのグローバルプラットフォーマーになるためIPOを検討している」と明かした。
今回のIPOについて玉川氏は「スタートアップが成長して企業に買収された後、IPOするという流れはあまりない。スタートアップのIPOはよく“イグジット=出口”といわれるが、今回のIPOは“スイングバイ”だと考えている。地球のように大きなKDDIのアセットを活用して、地球軌道から飛び出せるような大きな成長を目指すためのものだ」と説明する。
髙橋氏は「スタートアップがまだ真っ赤なPL(損益計算書)なのに無理にIPOするというやり方ではなく、力をしっかり付けてもらってからIPOするというやり方があると思っていた。KDDIグループの中でソラコムは既にある程度利益を確保できるようになっているし、今後KDDIのIoT世界基盤を一緒に進めて行く方針も共有できているので、次のステップとしてIPOということもあり得るのではないか」とコメントした。なお、「IPOというとソラコムがKDDIグループから離れるイメージがあるかもしれないが、それは考えていない。スイングしながらどんどん新しいものを生み出してもらうイメージだ」(同氏)としている。
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