村田製作所は、セラミックコンデンサーの材料設計技術を応用し排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料を開発したと発表した。
村田製作所は2024年2月29日、セラミックコンデンサーの材料設計技術を応用し世界で初めて(同社調べ)排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料を開発したと発表した。
同材料の量産は既に開始しており、同材料を使用した排ガス処理用ハニカム触媒を中国の触媒メーカーであるShanghai FT Technology(F-Tech)が製造/販売している。
近年、製造業では、企業活動によって自然環境に与える影響を抑える取り組みの強化が求められている。工場での生産活動に伴って発生する排ガスの処理もその1つだ。工場から排出されるトルエン、キシレン、酢酸エチルなどのガスは、自然界に放出されると健康被害や自然破壊を引き起こす可能性がある。そのため、蓄熱燃焼式排ガス処理装置(RTO)を活用し、天然ガスなどを燃料とするバーナーによって数百℃まで加熱することで分解処理している。
ただし、この過程でエネルギー消費とCO2の排出を伴うため、気候変動などの環境問題に悪影響を及ぼす。
一般的に、排ガス処理時の熱エネルギーロスを低減する方法として、パラジウムや白金などの貴金属を使用した触媒が利用されている。これらの貴金属は、排ガスを分解する化学反応を促進する機能を持つため、自燃触媒として使用することで、排ガス処理装置の設定温度を下げられる。しかし、こうした貴金属触媒は排ガス処理装置内での加熱による劣化が避けられない。
そこで村田製作所は、セラミックコンデンサーの材料設計技術を応用した排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料を開発した。この材料は、耐熱性の高いセラミックの構造内にVOCの分解反応を促進させる活性元素が埋め込まれているため、燃焼室の温度が850℃を超えても熱劣化しない。そのため、濃度変動による温度上昇がある場合でも安全/高効率な利用が可能だ。
同材料をコーティングした排ガス処理用ハニカム触媒を使用することで、排ガス処理装置の設定温度を下げ、熱回収率や自燃率を向上できるため、バーナー加熱での燃料と燃料由来のCO2排出量を削減できる。これにより、削減が難しかった「Scope1(燃料の使用や工業プロセスでの直接排出の温室効果ガス排出量)」の削減に貢献する。さらに、従来の触媒と異なり市場価格の変動が大きい貴金属を一切使用していないという利点もある。
同材料の量産は既に開始しており、産業用触媒メーカーのF-Techが排ガス処理装置用のハニカム触媒に加工し、販売している。この排ガス処理用ハニカム触媒は、既に村田製作所の中国拠点(無錫拠点で2台、野洲拠点で2台、出雲拠点で1台)と社外の協力企業の工場に先行導入されており、処理に伴うバーナーでの天然ガスの消費を最大53%削減する効果が確認されている。この結果を受けて、排ガス処理用ハニカム触媒を同社グループの国内外の拠点に全面展開し、2024年度中に計10台(導入済み5台を含む)を運用する予定だ。
主な用途としては、自動車、二輪車、鉄道、船舶、重機および各種部品製造などの塗装工程や印刷、電子部品、化学などの多品種製造工程での利用が想定されている。
排ガス処理用耐熱セラミック触媒材料は中国河南省の河南博愛強力車輪製造や江蘇省の無錫村田電子に導入されている。
河南博愛強力車輪製造では商用車のホイールに塗料を塗布する工程で主成分が酢酸エチルのガスが排出されている。排出されるガスの濃度は低いが、変動が大きいため、RTOの燃焼室の温度を850℃と高く設定して処理していたが、燃料消費量が大きく、年間燃料費に1000万円を費やしていた。処理風量は1時間当たり3万8000Nm3で、出口排ガス濃度は1m3当たり約30mgだった。
解決策として、2021年2月に排ガス処理用ハニカム触媒をRTOに投入した。排出基準を満たしていることを確認しながら燃焼室温度を700℃まで低減。これにより燃料削減率53%を達成している。特に、排ガス濃度が高くなる高稼働時は自燃が可能になり、大きな燃料削減率を実現した。導入後、3年間継続使用して安定稼働中だ。
無錫村田電子では電子部品の脱脂工程で排ガスが生じている。排ガスは濃度が低く、変動が大きい。規制順守する目的で、RTOの燃焼室温度を870℃と高い温度で設定し出口濃度を低くしていたが、RTOの燃料消費量が大きかった。年間燃料費は3300万円で、処理風量は1時間当たり4万4000Nm3、出口排ガス濃度は1m3当たり約5-10mgCだった。
そこで、2021年5月に排ガス処理用ハニカム触媒をRTOに投入した。排出基準を満たしていることを確認しながら燃焼室温度を750℃まで低減。これにより、燃料削減率38.2%を達成し、排ガス処理用ハニカム触媒の導入後、2年9カ月の継続使用で安定稼働中だ。
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