ルネサスとしてはAI処理性能の目安となるTOPS(1TOPSは毎秒1兆回の演算性能)の数値よりも、代表的なAIモデルである分類系のResNet50、物体認識系のYOLOv2やYOLOX-sを用いた、より実用的なベンチマークでこそRZ/V2Hの性能が際立つとしている。競合他社のAIアクセラレータとのAI推論時間の比較では、枝刈りを行わないでも約2倍の性能があり、枝刈りを併用すれば10倍近い差が出る事例も出ている。
また、AI処理性能が最大80TOPSのRZ/V2Hの有力な競合製品となるのが、同最大40TOPSであるNVIDIAの「Jetson Nano Orin」だ。これに対しルネサスは「Jetson Nano Orinと同等のAI性能をファンレスで実現可能だ」と主張する。その裏付けとなるのが電力効率であり、RZ/V2Hの10TOPS/Wに対してJetson Nano Orinは1TOPS/Wにとどまる。また、Jetson Nano Orinは量産出荷向けの提供形態はモジュールだけだが、RZ/V2Hはモジュールでもデバイス単体でも提供できるため製品開発の自由度が高いという。
DRPを用いたプリ/ポスト処理によって、AI処理全体の電力効率と高速化で大きな効果が見込めることもメリットになる。YOLOX-sのAI処理プロセスについて、RZ/V2Hはレイテンシが12.5ms、消費電力が7.2Wであるのに対し、Jetson Nano Orinはレイテンシが16.0ms、消費電力が11.6Wとなった。
RZ/V2Hは、既存のルネサスMPU製品と同様に評価ボードを提供する予定だが、価格が10万円前後と高価なことが課題になっている。RZ/Vシリーズでは、製品開発に向けたハードルを下げるべくRZ/V2Lから「Raspberry Pi」のフォームファクターを踏襲したシングルボードコンピュータ(SBC)の展開を始めており、海外市場では高い評価を得ている。RZ/V2Hでは、AMATAMA、ユリ電気商会、J-7 SYSTEM WORKSが手掛ける自律型ロボット(AMR/HSR)開発用SBCとして「Kaki Pi(カキパイ)」を2024年4月後半をめどに投入する予定だ。価格は非公開だが、アヴネットが開発したRZ/V2LのSBC「RZBoard V2L」が約3万円(税込み)なので、これに準じた設定になるとみられる。
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