次に挙げられるのが、自動車業界における顧客接点業務での生成AI活用です。CESでは主に自動車のアフターサービスにおけるコネクテッドカーとCRMの連携デモが展示されていました。
Amazon Automotiveのブースでは、「AWS IoT Fleetwise」とSalesforce(セールスフォース)CRMの連携デモを紹介していました。自動車のタイヤがパンクした際に、そのデータをアラート情報としてAWS IoT Fleetwise経由でSalesforceの「Automotive Cloud」に連携します。Automotive Cloudではアラートを受けて新たなケースを起票した上で「Field Service」からロードサイドサービスを派遣する指示を出し、それを受けて、ダッシュボード側にもその情報を連携します。
Qualcommのブースでも、「Snapdragon」を搭載したコネクテッドカーとSalesforceのCRMの連携デモを展示していました。EVのバッテリーが高温になった際に、そのデータをQualcommの「Car2Cloud」を介してCRMに連携すると、SalesforceのAutomotive Cloudにアラートが表示されます。これを受けて、エージェントがコネクテッドカーに近隣の修理工場と修理費用のデータを連携、ドライバーがダッシュボードから入庫を予約するというシナリオです。データがCRMに連携された後に、SalesforceのAI「Einstein」を使用することで、CRM上でエージェント業務を支援します。
SalesforceのCRMでは、自動車業界のアフターサービスを行うサービスエージェントの業務支援を目的に、生成AIの活用をサービス化する予定です。お客さまからの問い合わせの回答案や、やりとりの要約、要約内容からの共通ナレッジの自動生成の他、お客さま向け電子メールの自動生成などを検討しています。
最後に挙げられるのが、SDV(Software Defined Vehicle)開発支援への生成AIの活用です。昨今、自動車のソフトウェア化が進んでおり、自動車開発の現場では大量のソフトウェアコードを書く必要性が出てきました。すでにコード自動作成のために生成AIが検討されているのは周知の事実です。
Amazon Automotiveのブースでは、自動運転システム開発における生成AI活用のデモを展示していました。大量に撮影された動画の中から、特定条件に合致した動画のみを生成AIでタグ付けして抽出するLVM(大規模視覚モデル)といわれる技術です。例えば「バスとコカコーラのトラック」で検索すると、大量に蓄積された自動運転AIの教育用データの中から「バス」や「コカコーラのトラック」に関連する動画に自動でタグ付けを行い、関連動画のみを抽出します。ここでのタグの自動生成にLVMの技術が使われています。このように特定の条件下の動画のみを抽出できるようになると、特定のシーンでの自動運転AIの教育が可能となり、自動運転システム開発の効率化が期待できるとのことです。
また、欧州のGDPR(一般データ保護規則)への対応のために、撮影した動画から個人の顔を判別できないように加工する技術も紹介されていました。顔の画像を匿名化する際に生成AIの技術を活用しています。匿名化しても、その人がどこを向いているかなどの基本的な要素が変わらないように画像を生成するのが、このAIのポイントです。
今回のCESで発表された自動車業界の生成AI活用は、コンセプトレベルのものや、まだ実用段階に至っていないものもありました。そのような意味では、自動車業界における生成AIの活用は黎明(れいめい)期だといえます。
こうした中でも、冒頭で挙げた3つのポイントである(1)パーソナライズされた顧客体験の提供、(2)アフターサービスの業務効率化、(3)SDV(Software Defined Vehicle)の開発支援など、自動車業界における生成AIの活用のトレンドは垣間見えたのではないでしょうか。これからより多くのパターンの活用例が登場してくると考えられます。自動車業界での生成AIの活用について、今後も目が離せません。
総合電機メーカーに勤務後にMBAを取得。その後、コンサルティング会社やITベンダーに勤務した後にセールスフォースジャパンに移籍。セールスフォースジャパンでは、主に製造・自動車・エネルギー業界の専門家として、顧客支援、社内教育、セールスプレイ開発、情報発信などの事業開発の業務に従事している。
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