ジェネレーティブデザインとは、設計者がコンピュータ上のソフトウェアに設計課題となる要件などを入力することで、何もないところから最適な形状を自動生成する仕組みを指します。自動設計ともいえる新たな設計アプローチであり、オートデスクのFusionは他の3D CADソフトウェアに先駆けて、ジェネレーティブデザイン機能を提供したことで知られています。
ここでは図6のように、3つのジオメトリ(ボディ)を「保持ジオメトリ」に設定しました。保持ジオメトリとは、形状を保持したいジオメトリを意味します。やや大きいボディの鉛直下向きに荷重を設定し、この3つのボディを結ぶモデルをジェネレーティブデザインで設定します。材料定義、製造条件を与えることで、ジェネレーティブデザインを開始します。ここまでで設定したものは「設計者が理想とする製品」の仕様だといえます。つまり、“設計者が考えるべきこと=設計の本質”はここでの設定内容に当たります。モデリングと解析を繰り返しながら少しずつ最適な形状に近づけていく従来のアプローチは、設計のための繰り返し(反復)作業といえます。ジェネレーティブデザインを活用することで、こうした煩雑な作業を軽減することができます。
ジェネレーティブデザインに必要な各種設定が完了したら、後は“AIによる生成”を行うだけです。ちなみに、Fusionの場合、その計算処理はクラウドコンピューティングによって行われるため、ローカルPCのスペックに依存することなく、AI/ジェネレーティブデザインの恩恵を受けられます。
計算中の画面(図7)では、複数案を比較表示してくれます。ここまでの検討結果を得るまでに1時間も要していません。ジェネレーティブデザインと「トポロジー最適化」は、その形状結果が同じようにも見えますが、設計領域にある保持ジオメトリのみをモデル化しているジェネレーティブデザインに対し、トポロジー最適化では対象となる部品などのモデルを先に作成してから形状最適化を行うため、アプローチそのものが異なります。
AIの力によって、これだけ多くの設計アイデアを短時間で生み出すことができるジェネレーティブデザインですが、最終的には設計者(人間)が最適な設計案を選び、より詳細な設計に落とし込むことになります。最初の要件や条件などの仕様を設定する部分もそうですが、設計者(人間)が果たす役割は十分に残されています。
ミッドレンジ3D CADを例にAI機能の活用イメージを紹介しましたが、こうした機能の普及によって、多くの設計者は繰り返し行うような煩雑なオペレーションから解放され、その効果的な設計アプローチを享受できるようになり、より良い設計の実現へとつなげられます。また、今後は機械学習をベースとしたAI機能だけでなく、生成AIのようなアプローチによる新たな設計体験(対話しながら設計するなど?)が登場することも期待されます。2024年はさらに踏み込んだAI活用、その可能性が感じられる1年になると信じています。 (次回へ続く)
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