今注目のテクノロジーといえば「ChatGPT」に代表される生成AIが挙げられるでしょう。社内情報資産を活用した業務効率化などビジネス利用が進む中、製造業におけるデザイン/設計業務においても生成AIの存在感が増しています。今どのような活用が進んでいるのか? 2024年メカ設計フォーラム新年展望では、生成AI×設計の現在と、未来を見据えた付き合い方について考察します。
いまさら説明するまでもありませんが、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)をベースとする対話型AI(人工知能)サービス「ChatGPT」の登場を皮切りに、生成AI(ジェネレーティブAI)のビジネス利用への期待が高まっています。
既に国内でも一部企業を中心に、社内の情報検索システムに生成AIを組み込んで必要な情報の要約を提示したり、社内情報に関する問い合わせに対応したりといった情報資産の有効活用、業務効率化を目的とした利用が進んでいます。
生成AIはユーザーのテキスト入力に基づいて文章を生成するだけでなく、画像や音楽、映像なども生成できることから、クリエイティブなコンテンツ制作に役立てようとする動きも生まれています。また、「2025年までに新薬や材料の30%以上が生成AI手法を用いて体系的に発見されるようになる」とガートナーが予測(※注1)するように、今後さまざまな業界や業務で生成AIを利用したユースケースが出てくると考えられています。
※注1:2023年9月4日にガートナーが発表した「企業における生成AIの未来:ChatGPTを越えてその先へ」から抜粋しています。
そこで、2024年メカ設計フォーラム新年展望では「生成AI×設計の現在と未来を見据えた付き合い方」をテーマに考察を述べたいと思います。
生成AIの適用範囲として、設計業務もその対象となり得ます。前述のガートナーのレポートでは、生成AIを活用した5つの業界ユースケースの1つに「部品の生成デザイン」が挙げられており、次のような説明が添えられています。
製造、自動車、航空宇宙、防衛などの業界は生成AIを活用することで、性能、材料、製造方法などの目標や制約に合わせて最適化された部品を設計することが可能になります。例えば、自動車メーカーは、生成デザインを用いて軽量設計を推し進め、燃費の向上という目標を達成できます。 出所:ガートナー
軽量化と剛性確保の両立は、自動車開発および昨今の自動車の電動化に欠かせない取り組みといえます。また、近年注目されるサステナブルなモノづくりの観点からも材料使用量をいかに削減するかが重要となってきます。このような熟練の設計者の知恵と経験だけではカバーし切れない厳しい要求に、生成AIの力を借りて応えていくというのは、人材不足や技術伝承の課題を抱える製造業としても自然な流れといえるのかもしれません。
余談になりますが、ガートナーの説明から察するに、既に3D CAD/CAEベンダー各社が提供している「ジェネレーティブデザイン」のことも生成AIに含めているように思います。これまで筆者は、より平易なインプット(例えば、対話のようなスタイル)でクリエイティブなアウトプットを生成できるものが生成AIであると思っていました。しかし、それはインプットの仕方、もっと言えばユーザーインタフェースの違いだけの話であって、アウトプットそのものは紛れもなくAIが導き出したものだと考えれば、“ジェネレーティブデザイン=生成AI”と捉えても間違いではないのでは? と考えています。このあたりはぜひ詳しい専門家の方のご意見も伺いたいところです(ご意見箱はコチラ)。
さて、こうした動きが盛り上がる一方で、「AI(生成AIを含む)が仕事を奪うのではないか?」と不安視されることも珍しくありません。しかし、現時点では人間が何かしらのアクションやインプットを与える必要がありますし、その結果に対する最終的な判断も人間がやるべきことだと考えます。AIが奪うのは“全ての仕事”ではなく、単純な繰り返し作業をはじめとする“ムダな仕事(=付加価値を生み出さない仕事)”だと理解すべきです。それよりもクリエイティブな作業をアシストしてくれる存在、設計者の能力を拡張してくれる存在と捉えて、うまく付き合っていくことが重要だと考えます。
ちなみに、2023年10月にMONOist/TechFactory編集部が実施した「設計・解析業務におけるAI活用に関する実態調査」アンケートの中で、同様の質問(AIが自身の仕事を奪う存在となり得るか?)をしたところ、「そうは思わない」が68.1%を占めていました。回答者からは「AIと人間の協調作業によってより良い設計ができる」「AIで得た結果に人が介入してこそ意味がある」「AIで1つの方向性は示せるが本質を理解している技術者は必要だ」といったコメント(一部抜粋/編集)が寄せられていました。
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