新潟大学、東京大学生産技術研究所、信州大学、コロラド大学ボルダー校は、太陽集熱によるCO2の分解に新反応性物質を使用する技術を開発したと発表した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が助成する「炭酸ガス(CO2)分解用ソーラー集熱反応器の国際共同研究開発」の一環で、新潟大学(新潟市西区)、東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)、信州大学(長野県松本市)、コロラド大学ボルダー校(米国コロラド州)は、太陽集熱によるCO2分解に新反応性物質を使用する技術を開発したと発表した。新反応性物質によるCO2の熱分解は世界初だという。
新潟大学とコロラド大学ボルダー校は、キセノンランプによる集光を用いた室内実験と、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が保有する太陽炉を用いた実験によって、反応性物質としてセリアやヘルシナイトのフォームデバイスを利用し、CO2を酸素と一酸化炭素に分離することに成功した。
実験では、まず高温にした反応器内にアルゴン(Ar)を流し込み、反応性物質から酸素を取り除く。その後、反応器内の温度を下げてCO2を流し込み、酸素を失った反応性物質によってCO2を還元し、一酸化炭素を発生させる。
これらのステップを繰り返すことでCO2を酸素と一酸化炭素に分離することに成功した。このような集熱反応実験と、ミクロ熱流動解析(東京大学)、マクロ集熱反応器解析(新潟大学)、システム解析(信州大学)を実施し、結果を相互に比較することで実際のプラントシステムの性能を高精度で予測することが可能となった。
このシミュレーション技術を用いてプラントの解析を実施することで、太陽光から合成燃料までの総合変換効率をセリアについては10%以上(過去の実績値の2倍以上)に向上できる見通しだ。また、ヘルシナイトについてはセリアの2倍以上の反応活性を示すことを実験で明らかにし、新しい反応物質として将来性が高いことを確認した。
なお、1600℃以上の高温域を含む広範な条件下でのセリアによる熱分解や、フォームデバイスによるヘルシナイト熱分解に成功したことは、いずれも世界で初めてとなる。これらの技術により、高温域でセリアが非常に良好な反応性が示され、セリアによる高効率プラントの概念設計を完成することができた。
一方で、ヘルシナイトはより低温で高い反応性を有することが分かった。セリアの原料であるセリウムがレアアースであるためコストが高くなることに対して、ヘルシナイトは安価な鉄とアルミニウムから製造できるため製造コストを劇的に下げることができると考えられる。高効率なCO2分解のめどが立ったことから、ソーラー燃料製造の低コスト化への応用が期待される。
今回の事業終了後、新潟大学、東京大学、信州大学は、実証プラントの建設や反応物質、フォームデバイス単独での実用化、集光系および集熱系の実用化など、多方向に展開し、カーボンニュートラルの実現に貢献していく。同事業の期間は2020〜2023年度としている。
日本やさまざまな国が目標に掲げる2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、近年国内外で工場などから排出されるCO2の分離/貯蔵(CCS)が広く行われるなど、CO2の利用方法についても研究が活発化している。
現状では、太陽光を使ったCO2の利用は太陽光発電に基づく水電解で水素を製造し、この水素をCO2と反応させてメタン合成をするメタネーションが有望とされているが、まだ実用化には至っていない。
電気を使わず、太陽の熱によって安価にCO2を分解して燃料を製造する方法が求められる中、新潟大学、東京大学、信州大学、コロラド大学ボルダー校は、今回の事業で実験とシミュレーションによる要素研究と、社会実装に向けた課題やロードマップの整理に取り組んできた。
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