「工場診断」は見える化による盤石な組織づくりの手法である現場改善を定量化する分析手法とは(6)(1/4 ページ)

工場の現場改善を定量化する科学的アプローチを可能にする手法を学習する本連載。第6回工場運営分析の後編として、見える化に基づく「工場診断」を取り上げる。

» 2024年01月30日 07時00分 公開

 今回は、前回に引き続き工場運営に関する分析手法について説明します。

 「工場診断」は、製造工程を総合的に改革するために、評価項目ごとに自社や他社の最高レベルのベンチマークを基に自社の現在のレベルを評価する分析手法です。その結果として、課題を明らかにし解決することにより生産改革、生産性向上、原価低減、スペース効率の向上などの成果を上げることができます。

 工場診断を行う前に、現状をできるだけ数値で把握して「見える化」しておく必要があります。「見える化」とは、マネジメントや日々のオベレーションのプロセスおよび結果を情報として把握し、関係者と共有化し、早期に課題を見極めることで速やかな対応に結び付ける取り組みをいいます。よく使用される言葉ですが、まずはこの「見える化」について説明し、正しい目的や意味について共有しておきたいと思います。

⇒連載「現場改善を定量化する分析手法とは」バックナンバー

1.「見える化」とは

 企業における日々の事業活動に不可欠な情報をいち早く開示/共有化し、課題を早期に見極めて迅速に対応策を打つことで、自社の競争力を高めていく取り組みを「見える化」といいます。これまでも、さまざまな定量情報あるいは定性情報を把握して、企業の経営者や業務の責任者がこれらの情報を基に次の戦略上の施策を検討し、その対応策をどうにか実施してきました。

 注目されている「見える化」は、このように把握した情報を基に、課題解決を現場主導で積極的に行っていくために行う経営や業務の改善活動における取り組みの一つです。今日では生産現場のみならず、開発や営業、企業経営そのものまで、あらゆる場面の情報が「見える化」の対象となっています。「見える化」は、複雑化していく日々の業務上の課題を現場で迅速に対応していくことで、経営の効率化に対して大きな役割を果たしています。また、「見える化」を継続的に実行していくためには、その仕組みづくりと問題や課題を積極的に開示していくといった管理監督者の意識改革が極めて重要になります。

1.1 工場診断の視点で「見える化」を考える

 工場診断における「見える化」の目的は、組織としての問題認識の共有、問題解決の促進と組織活動の活性化などが挙げられますが、これを具体化したものが「見える化」であるということがいえます。例えば、問題発見の目的は、問題解決にあるわけですから、その先に財務の健全化などを挙げることができます。このように、「見える化」を経営管理の活動として推進して行くためには、他の経営管理指標の改善手段と同様に、目的と対象と方法を明確にしていく必要があります。

1.2 工場診断における「見える化」の成果

 「見える化」の実行レベルの高い組織は、従業員の労働意欲や改善意識も高く、諸指標の管理レベルや、その結果も高い水準であるといわれています。また、とりわけレベルの高い職場の管理監督者は自らの職場を誇りに思い、より高いレベルの職場を求めようとし、逆に改善のあまり進んでいない職場の管理監督者は、自らの職場を他人に見せようとしないそうです。

 この考え方に立脚するならば、「見える化」を工場診断の手段として利用できることが考えられます。例えば、工場診断の項目に「見える化」を追加し、「見える化」のレベルを工場診断の代用特性値として評価して管理や改善レベルを診断したり、「見える化」のために作成した資料や仕組みを利用したりすることによって、診断業務の効率化を促進できます。

 このような着眼に基づき、工場の「見える化」を生産管理の対象として捉えてみても、工程管理(工程数、ST、作業切り替え時間と回数など)、マテハン、管理システム、作業管理、資材調達管理、外注管理、在庫管理、品質管理、原価管理、設備管理、安全管理、環境管理、標準化、スキル管理など、これらの診断項目のそれぞれに「見える化」の目的、方法などが幅広い範囲に設定することができます。

1.3「見える化」と経営戦略との結び付けによる経営効率の向上

 「見える化」の結果を経営成果へと素早く結び付けていくことが大切ですが、そのためには、コミュニケーションを介した連携の構築が不可欠となります。つまり、その連携構造は、マネジメントサイクルに沿った連携を指し、特に重要なことは、立案した長期の戦略に対する行動計画と管理監督者の日々の行動とのつながりを付けることにあります。経営戦略と第一線の管理監督者の連携をうまく付けていくためには、「いかに効果的なコミュニケーション構造を築くか」ということに尽きます。

 効果的なコミュニケーションの構造を作り上げていくためには、リーダーの役割として、一人一人の資質としてコミュニケーシヨン能力を向上させていかなければなりません。つまり、経営成果の向上は、従業員一人一人の資質に依存するということがいえます。

 優れた経営成果を持続できる企業は、特徴ある戦略立案能力が重要ではなく、高いコミュニケーション能力と経営サイドとの強い連携をもった適切な人財を創り出せる企業であるか否かということです。

 そういう企業が全ての競争力において平均以上のレベルを維持でき、特筆すべき競争力を築きあげることできる能力を備えた企業であるという研究結果も報告されています。必要に応じて短い間に他企業をしのぐ競争力を作り出せる能力を持てるかどうかが問題ですが、その解決策は、高いコミュニケーション能力と連携する力の醸成にあります。

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