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» 2024年01月31日 10時00分 公開

「炊き立てのおいしいご飯」を再発明 自動計量IH炊飯器が持つすごみ小寺信良が見た革新製品の舞台裏(28)(1/4 ページ)

2023年7月に登場した自動計量IH炊飯器「SR-AX1」は、装置内にあらかじめ米と水を入れておけば、スマートフォンからの遠隔操作で炊飯量がセットでき、指定時間までに炊き上げるという家電だ。最近、“攻めた”白物家電を展開するパナソニックだが、狙いは何か。開発者らに話を聞いた。

[小寺信良MONOist]

 パナソニックの白物家電が攻めている。先陣を切ったのはやはり2017年発売の、洗剤自動投入機能を搭載した「ななめドラム洗濯乾燥機」だろう。洗濯機内部に貯蔵タンクを備え、あらかじめ洗剤などを入れておくだけで、あとは洗濯時に自動投入してくれる。現在は液体洗剤、柔軟剤だけでなく、おしゃれ着洗剤や酸素系液体漂白剤まで3タイプを自動投入できるようになっている。

 2023年5月には、1人用食洗機「SOLATA」を取材した。「1人分ぐらい手で洗えば済む」という概念を覆し、これまで無視されてきたお一人様ゾーンに新市場を開拓した。

 そして2023年7月に登場したのが、自動計量IH炊飯器「SR-AX1」だ。あらかじめ本体内に米と水を入れておけば、スマートフォンからの遠隔操作で炊飯量がセットでき、指定時間までに炊き上げる。

 米を洗う機能はないので、無洗米専用だ。最大炊飯量は2合まで。保温機能はない。一見特殊なターゲットに向けた商品に見えるが、実際そうなのか。これまで新市場を開拓してきた同社の白物家電なだけに、気になるところだ。

 その疑問を解決すべく、製品に関わった皆さんにお話しを伺うことにした。今回取材させていただいたのは、商品企画を担当したパナソニック株式会社 くらしアプライアンス キッチン空間事業部 調理機器BU コンシューマーSBU 商品企画部 調理器商品企画課の林田章吾氏、技術を担当した調理器神戸技術部 機構設計課の大村拓匡氏、マーケティングを担当する国内マーケティング部 調理器商品課の瀬良海翔氏の3人だ。

左から商品企画を担当した林田章吾氏、技術を担当した大村拓匡氏、マーケティングを担当する瀬良海翔氏[クリックして拡大] 出所:パナソニック

20年前からの構想が形に

――「全自動」が売りの白物家電の中で、それでも人がやらなければならなかった部分をさらに自動化する流れが貴社の中にあるように思います。今回の炊飯器も、洗剤自動投入洗濯機や1人用食洗機といった製品の流れから出てきたものなんでしょうか?

林田章吾氏(以下、林田氏) もちろん洗剤自動投入機能などの他カテゴリーの取り組み情報は共有されており、私たち企画部門も当然横の動きは確認しています。でも、この商品の出所はそうしたムーブメントに乗って出てきたわけではないんです。自動計量の炊飯器の構想は、実はもう社内には20年ぐらい前からあって、どうやって形にできるかをずっと模索し続けてきたんですね。

 昔は3食とも家族そろってご自宅でご飯を食べるっていうのが、ある種当たり前でした。自動計量を前提にすると1回に炊飯する量も多いことでお米や水のタンクが大きくなってしまいます。まだ無洗米も普及していなかったので精米機能も必要で、研いだり排水したりといろいろ盛りだくさんな商品像になっていました。それで、構想はあるものの、企画がずっと眠った状態になっていました。

 それがちょうど今、食洗器の「SOLOTA」や洗濯機の洗剤自動投入機能などが時代のニーズに合う製品として注目されてきた。お客さまの生活や価値観に合わせる、その手段としてIoT(モノのインターネット)などの技術も進化しており、この炊飯器の構想も具現化できました。

20年余の構想期間を経てようやく形になった自動計量IH炊飯器「SR-AX1」 20年余の構想期間を経てようやく形になった自動計量IH炊飯器「SR-AX1」[クリックして拡大]

――最大炊飯量が2合というのは、今の炊飯器としては少ないように見えます。これは小型化したいという狙いからなんでしょうか。

林田氏 日本の炊飯器市場は5合と一升炊きがメインでしたが、1回当たりの炊飯量の変遷を見ていると、実は今は5合炊き炊飯器ご使用の方も1〜3合が中心になってきています。昔に比べて、かなり少なくなってきていますね。

 もともと、自動計量炊飯器のコンセプトがマッチするのは1回当たりの炊飯量が少ないDINKsや単身世帯と想定し、そこをメインに据えていました。ですが3人、4人の世帯でも1回の炊飯で食べきるという使われ方も増えてきているので、2合炊きでもいいかな、と思ってもらえるケースも出てきていると思っています。

※DINKs:Double Income No Kidsの略。1980年代に産まれた造語で、子どもを持たない夫婦共働き世帯を指す

 自動計量なら炊飯の手間がかからないので、1食ずつ炊いていただくという前提であれば、十分使っていただけるんじゃないかなと仮説も立てていました。

――うちも高校生が2人いる4人家族なんですが、朝のお弁当がなければ夕飯は2合で十分足りるんですよ。そのあたりのバランスが絶妙で、一般家庭でも全然いけるのではと思いました。

林田氏 朝食にもご飯食べたいという方も、3食ともご飯食べたいという方もいらっしゃいます。1回ずつの炊飯のハードルを下げることで、どちらの方にも毎回炊きたてを楽しんでいただけると嬉しいですね。

スマホアプリから炊飯量や炊き上がり時刻を設定できる スマホアプリから炊飯量や炊き上がり時刻を設定できる[クリックして拡大]

――炊飯量をスマホで遠隔からセットできるというのも、面白いです。

林田氏 これまで炊飯の予約って、炊飯量と炊き上がる時間を事前に決めないといけなかったわけです。が、それでは困ることも多いと思います。例えば、奥様のご不満によく出てくるところの、「今日晩御飯いらないって、なんで直前で言うねん」みたいなやつですね。

 それを遠隔で、直前でも外出先から調整できて、自分の食べたいタイミングや量に合わせて炊飯できるといったところや、 家を出た後に献立を変えてもそれに合わせてごはんの量を調整できるというのが、この炊飯器の良さです。

――お米は2kgまで内蔵できると。一方で水は最大2合分までですよね。これはなぜでしょう?

林田氏 水は衛生面を気にされる方も多いですし、基本的には毎日変えていただくことが前提になります。そこは最大炊飯量に合わせるものとして、今回は仕様化しました。

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