1人暮らしのための食洗機、パナソニックが「SOLOTA」に到達した理由小寺信良が見た革新製品の舞台裏(26)(1/4 ページ)

食洗機フリークである筆者は、1人用の食洗機“SOLOTA”こと「NP-TML1-W」が出たというニュースに注目した。1人暮らしに食洗機というアプローチが実に面白い。パナソニック くらしアプライアンス社の担当者に開発背景などを尋ねた。

» 2023年05月24日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

 筆者はこう見えて、卓上(後付け)食洗機にはかなりの知見があると思っている。最初に導入したのは、パナソニックの「プチ食洗」というシリーズだった。これを2機種と、他にもアイリスオーヤマを2機種、サンコーを1機種使い倒してきた。故障や誤動作で買い直してきたわけだが、おそらくメーカーの想定以上の回数を使っているからだろう。

 ただ、食洗機なしの手洗いに戻りたいとは一度も思った事はない。一度使ったらその便利さと快適さゆえにやめられないのが、食洗機という家電である。

 そんな食洗機フリークである筆者のアンテナに引っ掛かったのが、後付け型のリーディングカンパニーであるパナソニックから、1人用の食洗機“SOLOTA”こと「NP-TML1-W」が出たというニュースである。加えて、製品の買い切りではない、月額料金で利用できるサブスクリプションサービスもメーカーが直接提供するという。

1人用食洗機、SOLOTA(NP-TML1-W)[クリックして拡大] 出所:パナソニック くらしアプライアンス社

 これまで食洗機業界の最小モデルは、2人用であった。1人暮らしに食洗機というアプローチは、実に面白い。ぜひお話を伺いたい。

 今回取材させていただいたのは、この商品のマーケティングを担当したパナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU マーケティング総括 国内マーケティング部 マーケティング企画課の山本秀子氏、デザインを担当した同社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター AD3部 ビルトイン課の松本優子氏、技術を担当した同社 キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 食洗機事業総括 食洗機技術部 コンパクト商品設計課 コンパクト商品設計係の楠健吾氏の3人である。

左からデザイン担当の松本氏、技術担当の楠氏、マーケティング担当の山本氏 出所:パナソニック くらしアプライアンス社

「1人用食洗機」の市場性

――まず食洗機の市場について教えてください。いわゆるキッチンに備え付けのビルトイン型は、今や新築住宅には100%に近い数字で導入が進んでいるわけですが、この後付け型と言いますか、卓上型の市場規模ってどんな感じになっているんでしょうか。

山本秀子氏(以下、山本) そうですね。市場としては圧倒的にビルトインの方が大きくて、ざっくりといいますとビルトインと卓上では7対3とか8対2に近いイメージになると捉えていただければいいかと思います。

――この卓上型って、ちょっと前まではもうパナソニックしか作ってないという時代が結構長くありましたよね。

山本 2006年とかその頃までは、他メーカーでも卓上型食洗機を数多く展開されていました。ただ、そこから徐々に1社、また1社と撤退されていって、一時期は確かに当社しか卓上型は作ってないという時期もありました。

 そこから近年はタンク式という新しい給水方式を新規参入のメーカーが作って、また卓上食洗機を展開される会社が増えてきたという感じになりますね。

――これまで小型食洗機といっても、2人用ぐらいまでが最小だったのかなと思うんですけども、今回「NP-TML1」で1人向けにフォーカスされた。そこに商機ありと判断された理由って何だったんでしょうか。

山本 まず、明確に1人用をターゲットとして打ち出している商品が市場にありませんでした。食器洗いというものは、多くの人数で暮らしてらっしゃる世帯でも、1人だけで住んでらっしゃる世帯でも確実に発生します。それに対する面倒くさいとか時間がないといったご不満は、具体的に表れていなくても確実にお持ちではないかというところからスタートしています。

 また1人暮らしの時から食洗機を使っていただくことで、その方がのちのちご結婚ですとか、パートナーやお子さんとかができて世帯人数が増えていったときに、ごく自然に食器洗いは食洗機に任せるという習慣、文化が作れるのでは、という私達の思いもあって、今回新たに商品を投入させていただきました。

楠健吾氏(以下、楠) 今回の1人向けを検討する中で、これだったら顧客に響くものになるんじゃないか、という手応えを持てた要素が2つありました。

 まず世の中の変化というところで、中食(なかしょく:外食と内食の中間。弁当や総菜を家に持ち帰って食べる)などの新しい食文化の普及があります。つまり食洗機を使うユーザーが、必ずしも家で調理をする人という前提ではなくなったということです。

 もう1つは、1人暮らしに特徴的な食習慣に気付けたことですね。開発初期に、ターゲットユーザー世代のメンバーで議論を重ねる中で、「自分たちが単身生活を送る中で使う食器って限られているよね」「その少ない点数の食器を毎日繰り返し使っているね」という会話をしました。その後、仮説検証のユーザ調査を行い、多くの単身者が限られた食器を繰り返し使用しているという生活実態が分かりました。

 この2点を掴んだのが、商機を見つけたといいますか、顧客に響くものにできるんじゃないかという確信が持てた瞬間でした。

松本優子氏(以下、松本) もともと食洗機はファミリー世帯に向けたもので、たくさんの食器をいっぺんに洗う、そういう時短のための家電だったんですけど、1人暮らしなど単身世帯を調査していく中で、食器の枚数に関わらず洗い物自体がすごくイヤ、と感じておられる方が多いと分かりました。ただ食洗機を買うかってなると、そこまではちょっとみたいな。

 「家に置けるんだったら」「あったらいいけど」ぐらいのぼんやりしたニーズを潜在的に持っている方が多いという感触はありました。かといって、市場には1人暮らしに向けた製品はない。そういう人たちに対して、これは「1人暮らしのため」の、「あなたのための食洗機」ですよっていう商品があれば、「食洗機があったらいいな」ってぼんやり思ってる方が目をつけてくれるんじゃないかと。きちんと具体化したものを市場に投入していくことが、市場の開拓につながるんじゃないかと考えて作っていったところもありました。

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