1人暮らしのための食洗機、パナソニックが「SOLOTA」に到達した理由小寺信良が見た革新製品の舞台裏(26)(2/4 ページ)

» 2023年05月24日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

コンパクトでも庫内は広くする設計に

――しかしTML1のように食洗機の中が見えるって作りは、すごくコストがかかると思うんですよね。今市場にあるものも、中が見えるタイプはちょっと高い。あえてそこに挑戦した、「中が見える」にこだわった理由っていうのはどういうところでしょう。

前面、背面ともに広く向こう側が見える構造[クリックして拡大]

松本 1人暮らしの狭いキッチンに大きな食洗機を置くと圧迫感が生まれてしまうことを懸念して、それを視覚的に軽減できないかと考えました。オープンシェルフみたいな、家具のような佇まいで、枠だけがあって中に食器を置ける「洗える食器棚」にしたいな、というコンセプトを具体化していきました。

 今まで食洗機を使ってこなかった方からも、洗浄してる状態が見える分、安心して使えるというお声をいただいています。

――確かに食洗機って中が見えると楽しいんですよね。ただ設計としては、このぐらいの容積で、しかもドア面だけじゃなくて後ろ側もクリアにするってなると、相当難しいと思うんですけど。

 設計的な難易度で言うと、外形サイズを小さくすることと相反して、食器を入れる庫内をできるだけ大きく取る。まず、この見極めが困難でした。小さければ小さいほどいいんですが、使い勝手を損なってはいけない、というところの線引きがなかなか難しかったんですね。

 そこでまず「単身者の生活の中でよく使う食器6点」を定めました。「スタメン食器」って私たちは呼んでいたんですけど、大皿1枚、中鉢1枚、茶碗、汁椀、コップ、小皿の6点からなるスターティングメンバーですね。それにお箸やフォークなどのカトラリー。これらが十分に入る庫内容積を確保した上で、極限まで製品サイズを小さくしようと取り組みました。

「スタメン食器」が綺麗に入る[クリックして拡大] 出所:パナソニック くらしアプライアンス社

 そのためには全ての部品を小型化して、かつ無駄なく配置しないといけません。大幅な小型化なので、1つの変更が複数の部品にも影響を与えます。最適な配置を求めて、何度もチューニングを繰り返しました。

 加えて、特徴的な前後の窓についても頭を悩ませました。窓を付けることによって筐体を分割しますので、水がその分割部から漏らさないようにする部品が追加で必要です。また、万が一そこから水が漏れてしまっても、それを庫内に回収することも求められました。これを松本からの要望であった細いフレームの中に収めるというのは、構造的にかなり難しい部分でしたが、このデザインを実現したいという想いで何とか実現しました。

――ああそうか。後ろも透明なので、そこに配線やパイプを通せない。横を通すしかないわけですもんね。

 加えて性能面でも、小型化した部品ながら洗浄性能や乾燥性能を十分確保しています。

 例えば今回洗浄に使うノズルは、従来のものより二回り以上小さく設計しています。今回の製品って奥行きスリムということで、上から見ると長方形型なので、回転するノズルの大きさが奥行き幅で制限されてしまうんです。ただ、小さいノズルで長手方向の隅々まで洗おうとすると、どうしてもハードルは高くなります。そこは流体解析などを使って隅々まで水が行き渡るように、ノズルの穴の配置、形状の最適化設計をしていきました。

 ノズルの吹き出し口の形状は、一般的な食洗機ですと、丸い穴のものが多いかと思います。一方で、当社はドーム状になっている部分を一部切り欠く形で、ノズルの吹き出し口を形成しています。そうすることで、噴射後に水が扇形の面状に広がった状態で庫内を旋回するので、線で吹き出すよりも少ない水量で隅々まで洗えるという効果があります。

――よくこのノズルの軸のところに洗剤の粉が入り込んで、うまく回らない食洗機もあるんですよ。そういえばパナソニックの食洗機はそんなことなかったなと。何か回転する機構に工夫があるんでしょうか。

 ノズルは水を噴射する反力で回転力を生み出しています。ただポンプから水を送り込んだときに、水がそのノズル自身を持ち上げてしまいます。

 この力とノズルから上向きに噴射する水の反力、この上向きの力と下向きの力をうまく釣り合わせないと、ノズルの摺動部が浮き気味になって、そこに洗剤の粉であったり、ごみが詰まるっていう現象が起きてしまいます。当社の製品はきちっとそこの力のつり合いが確保できるように設計しておりますので、そのようなトラブルはございません。

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