複雑化した工場リスク、有事を見据えた取り組みとは複雑化した工場リスクに対する課題と処方箋(9)(2/2 ページ)

» 2024年01月26日 10時30分 公開
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工場を取り巻くリスクへの着手、再検討

 工場を取り巻く多岐にわたるリスクに対しては、法規制違反をはじめとしたインシデント発生時に、平時の体制構築や有事対応の評価が行政罰の減免などにつながることも念頭に置き、危機対応に備えた体制構築が重要となるとお伝えしてきました。

 本連載を通じてさまざまなテーマで工場が取り組むべき事項に触れてきました。特に「リスクアセスメントを行うこと」、あるいは「既存のリスクアセスメント手法を見直すこと」については、アフターコロナでさまざまな世界情勢が変化していく中で、これまでの会社の仕組みが陳腐化、形骸化していないか、従業員一人一人にまで浸透しているのかといった観点で、再検討するタイミングが来ているのではないかと筆者は考えます。

 企業を取り巻くさまざまな事象が及ぼす固有のリスクの評価を行った上で、優先度が高いと判断したテーマに対して組織/仕組みのデザイン評価を踏まえた対応策の検討を行うことは重要です。一方で、従業員一人一人への仕組みの浸透度合い、当該テーマに関する従業員の思考、行動などを必要に応じて把握することも有用です。

 具体的には、リスクテーマに関して過去にどのような事象が発生しどのように対処したのかといった事項、今後リスクに遭遇した際に速やかにエスカレーションを起こせるかといった事項、そして危機対応が求められた際のレジリエンスに関する事項などが考えられます。

 予防/早期発見のための組織設計や各種方針、手続きについては、その整備状況にとどまらず、設計された組織の中で活動する従業員一人一人の思考や行動状況などに着目する必要があります。そのためには、日々の業務でのコミュニケーションから情報収集を意識すること、研修などをはじめとした特定のオンサイトでの情報収集の機会を設けること、国や本社、工場拠点を跨いだ意識調査を定期的に行うことなどが重要です。

 このような取り組みを行うことによって、これまで見えてこなかった課題やリスク、国や地域で異なる環境などの分析や気付きが得られるでしょう。加えて、さまざまな改善を後押しする本社の取り組みやメッセージを浸透させるキーパーソンが見つかるといった好循環につながることも考えられます。

図2:リスク対応と従業員意識調査のイメージ[クリックして拡大] 出所:KPMGコンサルティング

 本連載を通して「リスクベースでの対応の重要性」をお伝えしてきましたが、「各人の意識/行動」がその成否に大きく影響すると考えられます。本連載が複雑化した工場リスクに対する処方箋となることを願いつつ、連載の結語とします。

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筆者紹介

馬場 智紹(ばば ともつぐ)/シニアマネジャー

事業会社や他コンサルティングファームを経てKPMGコンサルティング株式会社に参画。複数の不正調査案件や事業再生案件の他、調査後の再発防止計画の立案・実行支援の中での各種当局対応支援の経験を有する。




荒尾宗明(あらお むねあき)/マネジャー

中央官庁において、規制法の制度設計・運用や不正対応等を経験し、2022年にKPMGコンサルティングへ参画。グローバルでの法務・コンプライアンス、地政学リスクマネジメントなど各種リスクコンサルティング業務を担当。




生田春樹(いくた はるき)/マネジャー

事業会社にて、法務/事業企画の経験を経て現職。品質不正案件を中心に、複数の不正調査/公表対応/再発防止等にかかわる有事対応支援業務に従事。





中野成崇(なかの みちたか)/シニアコンサルタント

商社を経てKPMGコンサルティングに参画。製造業向けコンプライアンス研修の企画実行支援、海外労働法令の順守支援、製造現場や工場におけるコンプライアンス支援、独占禁止法や下請法等の競争法への順守対応支援等の法務コンプライアンス領域の支援業務に従事。


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