――SaaS製品に対する製造業での受け止め方はどうでしょうか。
神谷氏 企業によって異なる印象だ。これからPLMを導入する企業はソフトウェアのカスタマイズをそれほど必要としないので、パッケージ製品として「Windchill+」などのSaaSを手早く取り入れられるだろう。
一方で、既にカスタマイズを作り込んでいる企業へのSaaS製品の浸透は少し時間がかかりそうだ。パッケージにワークフローや社内システムを合わせる考え方に転換していく必要がある。CADデータという製造業にとって大きな財産をクラウド環境に上げることに抵抗感を覚える、心理的な問題もある。
ただ、以前に比べると製造業にも変化が見られる。現在ではSaaSでの導入をまず考えて、それが難しければオンプレミス導入を検討するという企業も少なくない。だが、オンプレミスで導入してもそれを自社のみで運用することはほとんどなく、実際にはSIerに運用を任せている。そのランニングコストや、アップデート時の改修に莫大な時間とコストがかかることに、多くの企業が気付き始めている。
PTC製品の場合、CADのSaaSツール「Creo+」とWindchill+をシームレスに連携させることでより大きなメリットが生まれる。また、米国ではフルクラウド3D CADソリューションの「Onshape」が非常に伸びている。いずれの製品についても、今後はグローバルでのSaaS化成功事例を国内でも丁寧に共有していくことで、導入障壁をさらに取り除いていきたい。
――PTCでは現在、教育機関でのユーザー拡大にも注力しています。狙いは何でしょうか。
神谷氏 世界と比べて、日本のデジタル競争力を高める上で一番課題になっているのは人材不足だ。顧客からも人材が足りないという声をよく聞く。データ分析や3Dモデリング、そしてモデルベースのシステムエンジニアリングのスキルを備えた人材が特に足りない。海外ではOnshapeを学生に無償で提供して、オンラインで学習する生徒を中心に注目を集めている。同様の取り組みを日本でも戦略を立てて取り組んでいきたい。
学生時代に使ったアプリケーションは、社会人になってからも使い続けてもらえる。ただ、PTCのWebサイトから無償でダウンロードできるようにしているのだが、その存在をまだあまり知ってもらえていない。国内版のWebサイトでは使ってもらうためのサイト最適化がまだできてないので、必要であれば投資を行っていきたい。
PTCに来た理由の根底にあるのは、モノづくり大国の日本をもう一度元気にしたいという思いだ。今の日本は、他国に後れを取っている産業も多くあるが、中でも雇用の多い製造業は次世代のためにも再び盛り上げていく必要がある。
PTCはCADデータを扱うソフトウェアやPLM、ARプラットフォーム、さらにそれらのデータをマネジメントするツールもある面白い企業だ。デジタルスレッドを構成するソリューションをトータルで導入してもらうと最大の効果が出るが、そうした企業を今後1社でも多く作り、製造業の復活に貢献したい。
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