電動化1.7兆円、ADAS1兆円へ、ソフトと半導体を強化するデンソー電動化(2/2 ページ)

» 2023年11月16日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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半導体

 2030年度までに累計5000億円を投資し、2035年度には事業規模を足元の3倍となる7000億円に拡大する。半導体を使用するECU(電子制御ユニット)は、車両1台分の複合的な機能をつかさどる大規模統合ECU、アクチュエーター制御などを担う単一ECUに分かれる。大規模統合ECUに使用されるSoC(System on Chip)、単一ECUに使用されるマイコン、ECU全般に使用するASIC、モーターを駆動するためのパワー半導体など、それぞれをカバーする。

 パワー半導体は、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)向けの高性能Siパワー半導体の安定供給と、EV(電気自動車)向けのSiCパワー半導体の投入加速が基本的方針となる。SiCパワー半導体は、高品質ウエハーの実用化やコスト低減に取り組む他、パートナーとの連携で安定供給を実現する。アナログ半導体のASICは、25セル対応の電池監視ICや高放熱パッケージによる小型化など、ニーズを先取りした内製開発で差別化を図る。SoCはチップレット技術の獲得など業界との連携を深めることで車載に最適化していく。

 SiCパワー半導体の需要は車載が7割前後を占めているとし、ウエハーからデバイスまでのサプライチェーン構築と強靭化を自動車業界がけん引すべきであると指摘した。

パワー半導体の市場[クリックで拡大] 出所:デンソー

ソフトウェア

 ソフトウェア分野では、長年の実績があるさまざまなソフトウェアIPと実装力を生かし、高品質で高精度な大規模統合ECUを実現することが注力テーマだ。また、ソフトウェアとハードウェアが分離されて流通するSDV(ソフトウェアデファインドビークル)が展開される時代に向けて、自動車メーカー間を横断する標準化や共通化をリードすることを目指す。

 多彩なソフトウェアのIPを保有していること、自動車メーカーとのパートナーシップでユーザーエクスペリエンス(UX)の設計や上流開発に参加できること、ADASなどで大規模な開発チームのマネジメントのノウハウがあること、半導体の開発/製造によって半導体を使いこなすノウハウや質を向上する内製技術があることがデンソーの強みになるとしている。国内外の各地域のテクニカルセンターを中心にソフトウェアの現地開発を加速させる他、国内外のソフトウェア開発会社との連携や出資など、IT業界とのアライアンスも強化する。

統合ECU向けソフトウェアの開発力を強化する[クリックで拡大] 出所:デンソー

 大規模統合ECUはソフトウェアも拡大する。2020年から2030年にかけてソースコードは1億行から3億行に増加すると見込む。ソフトウェアの開発量は過去10年間で4倍に増加したが、今後2030年までに現状の3倍にさらに増えると見込む。ソフトウェアの開発効率を2倍に引き上げて対応する。量と質の両面で人材を確保することも不可欠だ。

 デンソーは2030年度にソフトウェア人材を現状の1.5倍となる1.8万人体制とする。人数の強化だけでなく、ITなど他業界で働くプロジェクトマネジメントアーキテクト人材など高度開発人材の獲得をグローバルで推進。新卒採用でもデンソーの理念や進めていく技術開発について明確に示しながら丁寧なマッチングを行う考えだ。また、ITと組み込みの融合領域に取り組むための教育体系も整いつつあるという。ソフトウェアの事業規模は足元の4倍となる8000億円に成長させる。

統合ECU向けソフトウェアのコア技術[クリックで拡大] 出所:デンソー

 統合ECU向けのクロスドメインのソフトウェアを最重要戦略分野と位置付ける。機能や生まれが異なるソフトウェアを組み合わせながら、自動車に要求される品質を担保することが技術的な課題の1つだ。内製のソフトウェアだけでなく、購入品やオープンソースソフトウェアなど広範囲で膨大な品質保証が求められる。ITと組み込みのはざまにあるさまざまな技術とその融合も求められる。

 2つ目の課題は、リアルタイム性やセーフティクリティカル性など求められる品質や精度が高いことだ。さらに、開発人材を幅広く管理するマネジメントも課題となる。これまで、ECUは1つのプロジェクトが100人前後だったが、統合ECUのソフトウェアは10倍の1000人規模となる。さまざまな機能や人材、ツールが入り乱れる中での洗練されたマネジメントが要求される。

 ソフトウェアの開発量増加やSDVの実現に向けて、開発プロセスの作り直しも進める。「IT業界から謙虚に学びながら、組み込み開発特有の領域をこなせるよう仕組みを作る。最適な電子プラットフォームアーキテクチャの設計から実装まで、自動車メーカーとの連携を強化した一気通貫の開発を推進する。うまいアーキテクチャができると、同じ機能のソフトウェアを作る場合でも仕事の量が減る。デンソーの仕事だけでなく、自動車メーカーやIT業界も含めて全体のアーキテクチャを技術的な知見から作り込む必要がある」

 さらに、内製開発ツールの進化や、半導体の知見を活用したミドルウェアの標準化/共通化の推進にも取り組む。AIやDXの活用により、ソフトウェアのコーディングの自動化を進め、業界トップの開発効率を目指す。

新規事業

 車載以外の新規事業では2030年度に3000億円の売り上げを目指す。2035年度には、全社売り上げの20%を占める規模まで成長させ、車載事業に影響されない第2の事業の柱として確立する。

 エネルギー領域では、水素ビジネスに参入する。再生可能エネルギーが余剰となった場合に、電力を水素に変換して長期保存できるようにする。水素を作る水電気分解装置(SOEC、Solid Oxide Electrolysis Cell)と、固体酸化物燃料電池(SOFC、Solid Oxide Fuel Cell)を市場投入する。

 SOECとSOFCに共通する技術資産を活用することで装置コストの低減を図る。高温下で電気と水素の変換を安定的に動作させる場面で、自動車の熱マネジメント技術が生きる。エアコンで導入した流体ポンプもSOECやSOFCの高効率運転に寄与する。排ガス向けのセラミック製品の微細構造も、水素と電気の高い変換効率に貢献する。

 食農領域では、施設園芸に工業化技術を導入して農場の工場化を目指す。完全子会社化したオランダのセルトングループとのシナジーを生かしてグローバルな事業展開を目指す。セルトングループは、農場のシステム設計や生育技術に強みを持つ。

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