Simulation Governance診断の質問リスト公開/診断の最新データから分かることシミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(4)(2/2 ページ)

» 2023年11月13日 09時00分 公開
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9つのサブカテゴリーごとに集計した統計値を紹介

 それでは、診断の最新データを紹介していきます。40項目で構成されている統計値を全て一気に出してしまうと数字のオンパレードになり、かえって分かりにくく消化不良にもなってしまうので、まずは全体傾向を理解いただくために、9つのサブカテゴリーごとに集計した統計値から紹介することにします。

Simulation Governance診断結果:サブカテゴリー集計 図1 Simulation Governance診断結果:サブカテゴリー集計[クリックで拡大]

 図1左の表では、9サブカテゴリーにおける参加社平均と最大値平均を記しています。各サブカテゴリーは、4〜5つの項目全体の平均値となっています。最大値平均というのは、構成する項目の最大値を平均している数字です。表の最右端列の全体平均値というのは、全てのサブカテゴリー平均値の平均なので同じ値となっています。右のレーダーチャートでサブカテゴリーの相対傾向を一目で見やすくするために加えた値になります。図1右のレーダーチャートで見ると、青色が参加者平均、黄色が全ての平均値2.59を示しているので、青色の各値が2.59よりも高いか低いかで、そのサブカテゴリーの相対的な高低が分かります。

 全体傾向として最初に目に付くのは、「文化」の「経営層」カテゴリーの平均点が最も高いということです。これは筆者にとっては意外でした。日本においては経営層が弱点ではないかと思い込んでいたからです。ところが、構成する4項目の中でも、特に、危機意識と変革リーダーシップの平均点が高いことから、経営層の意識と行動は実際のところ、それほどの弱点ではないかもしれないと考えられます。その一方で、他のサブカテゴリーがそれに比べて低いということは、経営層と現場との乖離(かいり)があるという見方もできます。理想としては、全体のバランスが取れている必要があると考えられるからです。

 今回明らかになった大きな特徴は、「ノウハウ活用」「活用手法」「管理の仕組み」というサブカテゴリーが、他のカテゴリーに比べて明らかに相対的に低いということです。ノウハウ活用のサブカテゴリーを構成するのは、CAE業務の特徴といえる属人性を排除するためのモデル標準化と共有化、手順の標準化、標準化活動の継続、判断ノウハウの定量化となっていることから、これらの数値が低いということは、属人的な作業がまだまだ減っていないということを示しています。

 活用手法の平均は9サブカテゴリーの中で2番目に低い2.10です。最大値平均は3.25となっていますが、構成する項目の1つで1社だけ4で、他全ての最大値が3なので、実質的に活用手法の全項目である「自動化プロセス」「実験計画法/設計探索」「不確定性手法」「代理モデル/AI」の最大値が3止まりという状況です。いわゆる「PIDO(Process Integration&Design Optimization)」の領域が、実際のところはまだまだ浸透し切れていないという、厳しい現実が見えています。ただ、学会発表、CAE懇話会、ベンダーセミナーなどでは先端的な発表を多く見ることも事実ですので、技術浸透の二極化が進んでいる可能性をうかがわせます。原因としては「PIDOがいまだ十分に認知されていない」「適用できる領域が少ない」「対応できる技術者が不足している」など考えられます。PIDOは設計品質を上げるためだけではなく、AI(人工知能)などデータサイエンスを促進するための基盤技術ですので、PIDOの適用遅れは、データサイエンス対応への遅れに直結する大きな課題といえるでしょう。

 少し話題がそれますが、筆者は2018年に米国の自動車企業BIG3のうちの1社をあるお客さまと訪問したことがあります。その際、とても印象に残ったのが「CAE技術者はOEMのBIG3やTier1サプライヤーの中で人材流動性があるが、単にCAEソフトを使いこなせるだけでは不十分で、実験計画法はもとより、最適設計とロバスト設計に通じていることが大前提(基本スキル)になっている」というお話を聞いたことです。1998年からPIDO技術を啓蒙(けいもう)し、市場を開拓してきた筆者としては、その当時以降の欧米の技術確立のスピードを見ていますので、非常に納得できるものがありました。20年経てばPIDOが常識技術になっているというのは当然だからです。一方で2018年からさらに5年経過している2023年の今でも、日本でのPIDOの浸透度合いは今回の診断結果に示されているように、残念な状況にあるわけです。日本の労働生産性が低いという背景には、こうした技術対応への遅れということが一端としてあるのではないかと推測できます。

 次の管理の仕組みは、9サブカテゴリーの中で最も低い平均値1.83です。平均2以下というのは極めて由々しき状況といえるでしょう。最大値平均は、見掛けは4になっていますが、例外的な1〜2社を除くと構成する4項目の最大値は2もしくは3止まりです。管理の仕組みとしての「SPDM(Simulation Process and Data Management)」の適用/活用レベルが低いことは、昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせないプラットフォームへの対応も遅れているということに通じます。実は、SPDMも筆者の専門分野ですので、この領域への関心と重要性をより喚起する責任を、痛感しております。

 またしても、少し脱線して個人的経験を述べることをお許しください。筆者がSPDMの啓蒙や紹介に従事し始めた2010年当初は(その当時は、SLM[Simulation Lifecycle Management]と呼ばれていました)、お客さまの関心も製品機能も解析と実験データ管理にフォーカスしており、それはそれで非常に斬新でしたので早い段階から急速に認知度を高め、導入企業も増えました。ところが、解析と実験だけではなく、本来の設計プロセス改革につながるテーマに広がるようになると、途端に浸透スピードが遅くなりました。データ管理は比較的容易ですが、仕事のやり方を改革するということになると、そう簡単ではないからです。当然のように見えますが、昨今のDXばやりを見るにつけ、もっと前から着手できていたはずなのに……という思いを抱かざるを得ないのです。10年以上前からシミュレーション主導による設計改革を提唱/提案してきましたが、それを着実に実現しているお客さまのケースは残念ながらそれほど多くはなく、大半のお客さまは仕事のやり方改革までには至っていない状況を見てきました。実現できているケースを今から振り返りますと、Simulation Governance要件のキーになるところが、会社全体として押さえられていることが分かります。とはいえ、まだ遅くない、スタートするには今日より遅いことはないという信念をぜひ読者の皆さんと共有していきたいと考えています。



 本診断にご参加いただける企業の皆さまを随時募集しておりますので、診断参加にご興味のある方は、本連載を読んだ旨を紹介欄の筆者メールアドレスまでご連絡ください。 (次回へ続く

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筆者プロフィール:

工藤 啓治(くどう けいじ)
ダッソー・システムズ株式会社
ラーニング・エクスペリエンス・シニア・エキスパート

スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、現在、ダッソー・システムズに所属する。39年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。


  • 学会活動:
    2006年から5年間、大阪大学 先端科学・イノベーション研究センター客員教授に就任し、「SDSI(System Design & System Integration) Cubic model」を考案し、日本学術振興会 第177委員会の主要成果物となる。その他、計算工学会、機械学会への論文多数
  • 情報発信:
    ダッソー・システムズ公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る

筆者とのコンタクトを希望される方へ:
件名に「Simulation Governanceについて」と記載の上、keiji.kudo@3ds.comまで直接メールご連絡をお願いします。


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