サステナブルな社会を目指していく中で、医療やヘルスケア分野は重要な役割を担っています。3Dスキャナーを活用して、腕や足などを計測すれば、その人の身体にぴったりと合ったギプスや義肢装具などを設計製作できるようになります。また、製作の際、3Dプリンタを活用すれば、金型を用意することなく、複雑な形状(身体にフィットした形状など)を安価に作れます。金型が不要になれば廃棄物の削減にもつながります。同じものを大量生産するのであれば金型を用意した方が早く、安価に製作できますが、一人一人の身体に合ったものを作る際には、3Dスキャナーと3Dプリンタによるアプローチが有効だといえます。ただし、日本の医療現場ではまだこうした活用を見る機会はほとんどありません。多くの事例は海外から発信されています。
そうした中でも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が確認された当初、日本国内でも3Dプリンタを活用して製造されたマスクやフェイスシールドが有志らの手によって医療現場に届けられました。こうした助け合いの輪は世界中で見られ、3Dプリンタをはじめとするデジタルツールがその活動を下支えしていました。
文化財や遺産など、歴史的価値のあるものを後世に伝え残すことも持続可能な社会を作る上で重要な取り組みです。しかし、貴重な文化財などを管理することは難しく、風化に伴う劣化や震災による破損もあります。壊れてしまったものを修復するには修復元になる情報が重要ですが、写真などでは情報が不足し修復時に悩むケースが発生します。
そこで、現在、3Dスキャナーを活用して現物である文化財を3Dスキャンしてデジタルデータとして記録する活動が行われています。デジタルデータ化されれば、貴重な現物に触れることなく細部を確認できますし、そうした情報を基に、将来、破損/劣化してしまった箇所を修復するといったことも可能になるでしょう。また、3Dスキャナーと3Dプリンタを組み合わせてデジタルコピー、つまりレプリカを製作できます。本物の重要文化財を直接手で触れることはできませんが、レプリカであれば手に取って近くで見ることもできますし、いろいろな体験を提供できます。
3Dスキャナーの活用とサステナブルなモノづくりは非常に親和性が高く、製造業での活用以外にもさまざまな可能性を秘めていることがお分かりいただけたかと思います。しかし、3Dスキャナーの活用には必ずといっていいほど、スキャンデータの編集/修正作業が伴います。「3Dスキャン=3D CADデータ」ではありません。よく勘違いされますが、3Dスキャンしたデータは点群でポリゴンデータ(STL)に変換され、そのまま3D CADで編集利用することは基本的にできません。通常のサーフェスやソリッドといった3D CADデータとは異なるため、後工程での利用が困難なこともあり、取り扱いには注意が必要です。
これまでは、3Dスキャナーというと非常に高価なものでしたが、最近では数万円で購入できる3Dスキャナーや「iPhone」の便利なアプリも多数登場しています。もちろん、データ品質や精度などを考えると高額な3Dスキャナーの実力には遠く及びませんが、用途によっては十分な機能を備えているものもあります。こうした流れからも分かる通り、3Dスキャナーで現物を3Dデータ化することのハードルがかなり下がってきていると感じます。専門家だけが行う業務ではなく、一般の人でも気軽に現物を3Dデータ化できる環境が整いつつあるのです。
また、自分で3Dスキャンしなくても、外部の3Dスキャンサービスを利用して高品質なデータを入手するという方法もあります。手軽なものも含め、非常に多くの選択肢がそろってきた今こそ、3Dスキャナーを活用したサステナブルなモノづくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。本稿の内容が参考になれば幸いです。 (次回へ続く)
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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