「私たちはアメリカンドリームを救った」、UAWが勝ち取ったものは自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)

» 2023年11月04日 10時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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「上がった分を払ってもらえる」という現実味と安心

 未来は明るいと信じられるアメリカンドリームはうらやましいですよね。その一方で、会社が稼げなければアメリカンドリームは成立しません。

 米国自動車メーカー3社の賃上げなどのコスト負担は197億ドル(約2兆9400億円)に上ると日本経済新聞は紹介しています。自動車メーカーが環境技術や安全機能などさまざまな領域への投資が求められており、そのために固定費削減も実施してきた中で、アメリカンドリームを守るための費用を抱え込むわけです。穏やかではないですよね。

 トヨタ自動車やデンソーの決算会見でのコメントは、経理の責任者が出てくることもあってアメリカンドリームよりは現実的で地に足がついていました。

 例えば、デンソーの代表取締役副社長の松井靖氏は「半導体のコストが顕著に上がっている。また、日本の仕入先が賃上げを進めている。仕入先でのこれらの増加分を、内容は精査するが同一期内に直ちに支払っている。これらのエビデンスが出そろってから、自動車メーカーと価格転嫁を交渉する」とコメントしました。

 また、松井氏は「ティア1サプライヤーとしては、ティア2以降の仕入先に負担を押し付けるのではなく、正しい時期に正しく価格に反映し、自動車メーカーにも転嫁する正の循環を回すことを心掛けている。中小企業も収益性が上がって、さらに賃上げしやすくなるという好循環になる。これが自動車業界全体で正しくやれるようにしていき他の業界とも連携するのが、自動車業界が発展する1丁目1番地だ」と述べました。

 トヨタ自動車 執行役員の長田准氏は「従業員は1番の仲間。仕事でどういう頑張りをしてきたのか、会社としてもよく見ているので、物価や生活コストが上がっていることを含めて話し合っていく。年に1回の春闘だけでなく、毎月のように組合と話し合いをしていて、どんなことを改善していけるか議論している。それらを踏まえて賃上げの水準を考えていく」と語りました。

 仕入先に対しては「資材価格が非常に上がっており、円安でさらに高くなっている。部品や材料、エネルギーコスト、賃上げの部分は2022年度から支払ってきた。このスタンスは今期も変えるつもりはない。まずはティア1サプライヤーの負担分を支払っていくことで、ティア2サプライヤー以降にどう手厚くつなげていくかはしっかり話し合う。極力浸透していくようにしっかりやっていきたい」とコメントしています。

 労働組合と経営陣の立場の違いがあるとはいえ、アメリカンドリームを守ったと誇らしげなUAWと、上がった分を粛々と反映させていく日本の大手企業が、対照的に感じられた1週間でした。

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