製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第3回は、製品コンセプトやビジネスプランを具体化し、商品開発の実行判断を担う「商品企画」のプロセスを取り上げる。
前回は、エンジニアリングチェーンの最上流のプロセスとなる「研究開発」におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に焦点を当て、マテリアルズインフォマティクスに代表されるデータ活用の可能性を示した。
今回は、商品コンセプトやビジネスプランを具体化し、商品開発の実行判断を担う「商品企画」のプロセスをテーマに取り上げる。
顧客の嗜好や行動履歴に合わせたサービス/商品が利用される時代においては、商品開発の発想そのものを変換する必要がある。特に、B2Cビジネスを行うモノづくり企業では、プロセスが最適化された大量生産とオンデマンドでの少量生産との間のバランスを取らざるを得ない状況に直面しているのではないか。
マスカスタマイゼーションの本格的到来の中にいる製造業において、商品企画が持つべき視点について提言したい。
製造業の歴史を振り返ると、1850年頃の工芸品などの受注生産の時代から、1955年頃の機械化による大量生産の時代を経て、1990年頃から再び受注生産レベルの製品バリエーションが求められる時代へと遷移してきた(図2)。
この受注生産レベルの製品バリエーションを大量生産レベルのコストで実現させることをマスカスタマイゼーションと呼ぶ。
マスカスタマイゼーションは、製品自体を変化させているか、カスタム製品であることを表明しているか、の観点から「表面的」「協調的」「透過的」「適応的」の4つのタイプに分類できる(図3)。
「表面的」なタイプは、同一製品であるものの、サイズ変更などにより価値が期待できる製品である。ユニリーバが低価格/小容量の使い切りシャンプーを開発して、インドなどの新興国市場を開拓した例がこれに当たる。同じ製品をただ小分けしただけのように思えるが、大容量のボトルシャンプーを購入できない貧困層のニーズに合致した価値と価格で提供することで、彼らの暮らしを変える画期的な商品となった。
「協調的」なタイプは、デザイナーと顧客が対話してセミオーダースーツを作るように、顧客の要望に応じてカスタムできる製品を指す。足をスキャンしてサイズや形を計測して、シューズの中敷きが変わることで履き心地がとんでもなく良くなるといった具合だ。センサーで計測するだけで自動的に製品を設計するなど、個人差に対応する部分を簡単に実現する方法が出てきている。
「透過的」なタイプは、カスタムされているがそれを明らかにしない製品となる。カスタム製品は高価な印象を持たれがちなため、使ってみたら使いやすかったことが後で分かる方が価値の印象が高くなるだろう。インプラントは、撮像技術の進化により、簡単な計測でフィット感の高い製品を産み出せるようになったため、カスタムされていることを感じさせない特注品といえる。
「適応的」なタイプは、iPhoneやテスラのEV(電気自動車)が代表的だが、PlayStationやNintendo Switchなどのゲーム機もこのタイプといえる。ハードウェアを大量生産し、ソフトウェアで驚くほどの多様性に対応している。大きなプラットフォームが必要になりがちだが、その分ビジネスの破壊力が非常に大きくなる。商品企画が狙うべき領域として良さそうではあるが、必ずしも全ての製品がこのタイプにぴったりはまるとは限らない。
製造業がまず取り組んできたのは、サイズバリエーションにより顧客のニーズに応える「表面的」なタイプだろう。特にB2Bの世界で見られる、顧客要望に応じてほんのわずかに仕様を変更する製品は「協調的」であり、多くの日本企業はここにいると思われる。汎用的に見えて実はカスタムしている製品が「透過的」であり、それをソフトで実現した製品が「適応的」となるが、これらは自社の製品の特性や技術力に合わせて決まるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.