どのタイプのマスカスタマイゼーションであっても、顧客にパーソナライズされた体験価値を提供するためには、顧客のことをどのくらい理解しているかが重要であり、顧客理解力が差をつける。顧客理解には、現時点での顧客理解と顧客自身も知らない将来の顧客理解が存在し、ニーズ志向とシーズ志向の両面から深めなければならない。しかしながら、それらを全て把握することは困難となるため、「適応的」なアプローチにより、顧客自身が勝手に課題を解決する商品/サービスの仕組みを作ることが効果的である。
そのためには、いかにして顧客の手間にならないように、正しい精度で顧客データを取得できるかが重要となるが、同時に、そのための製造コストをいかにして最小化できるかが鍵となる。顧客要望に応じて仕様変更する場合、その対応でコストが上がらないように設計することが大切であり、効率的な生産ができる構造にしなければならない。
顧客の利用状況をどれだけ簡易にセンシングできるか、AIを活用して膨大なデータからの分析を自動化できるか、金属積層造形のようなアディティブマニュファクチャリングで生産プロセスを革新できるかなど、デジタル、アナログ問わず、最新テクノロジーを見極め、適用する力が求められる(図4)。
このように、ビジネスモデルの変革に踏み込んだ競争力のある商品/サービスを企画するためには、顧客理解力と製造コスト最小化能力の組み合わせが重要であり、どちらかが欠けてもうまくいかないだろう。
一般的に伝統的な企業におけるデジタル化の検討は、オペレーション軸(既存の製品/サービスの設計開発、生産、物流など業務の改善、コストの削減など)と、顧客体験軸(デジタルデータ主導の新しい売り方、アフターサービス、売上/利益の拡大など)のどちらかの文脈で進められることが多いが、パーソナライゼーション時代において、本質的な価値創出を狙うには、両軸を合わせた検討が必須となる。
顧客からのカスタム製品のオーダーに対して大量設計になっては本末転倒である。従来のマスマニュファクチャリングでの品質、生産性、納期短縮などの部分最適の取り組みとは異なる、エンジニアリングチェーン/サプライチェーン全体の再構築が求められる。
次回は、商品企画で立案した製品の仕様を具体化する「設計」プロセスに焦点を当てて解説する。
日比野 崇(ひびの たかし) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 シニア・マネジャー
これまでIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術を活用したソリューション立案/新規ビジネス開発など、多数のプロジェクトを推進。サービス企画/事業開発から業務オペレーション改革まで幅広くコンサルティング案件を担当し、製造業のDXを支援。
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