1台の機械でフライスや旋削、ギア加工などができる複合加工機による工程集約を掲げる中村留精密工業。2022年に同社 代表取締役社長に就任した中村匠吾氏に新工場建設の狙い、今後の展望などを聞いた。
工作機械メーカーの中村留精密工業(以下、中村留)は1台の機械でフライスや旋削、ギア加工などができる複合加工機による工程集約を掲げて、生産現場の自動化、省人化ニーズの高まりとともに存在感を高めている。
日本工作機械工業会の会長も務めた前社長の中村健一氏の後を受け、2022年に同社 代表取締役社長に就任した中村匠吾氏は、1991年生まれの若き経営者だ。2023年7月には、新たな工場「MAGI」が完成し、生産能力を一段と向上させている。新工場建設の狙いや積極的なSNS活用、今後の展望などを聞いた。
MONOist 2023年8月23〜25日までプライベートショー2023「負担を削る展」を本社工場(石川県白山市)で開催しました。「負担を削る」というテーマに込めた思いを教えてください。
中村氏 われわれの会社がそもそも目的としているのが、世界の現場で負担を削り、ものづくりに携わる人の生活を豊かにすること。これは役職、職責問わず全社員が集まる会議で1年ほどかけて話し合う中で出てきた言葉だ。
モノづくりの中で加工というのは非常に面白い工程だ。例えば、人工骨の加工は複雑で時間がかかるが、素材がやがて骨の形になり、完成すると使う方の生活にとって欠かせないものになる。それを自分たちで図面を起こし、加工のプログラムを組み、実際に機械を動かして作っていく光景を見ると、こんなに面白いことはないと思う。
だが、現場には負担が多い。工場に行って「この仕事は大変だ」という人はいても、「この仕事は楽だ」という人に会ったことがない。
負担があるのはいい。ただ、負担に埋もれてしまうと、本来楽しかったことを忘れてしまう。そういう負のサイクルに陥ると、新しい人材も入ってこなくなる。
製造業の未来のためには、みんなが本来のモノづくりの面白さを感じられるようにしないといけない。そのためには負担を削らないといけない。それをわれわれの機械やサービスで実現したい。われわれの製品は材料を削る機械だが、現場の負担も削れるようにしたいという原点を、ユーザーに届けるプライベートショーにするという思いで社員が命名した。
現場の負担を削る最大の手段が複合化だと考えているが、われわれはこの複合化を実現した複合加工機に集中している工作機械メーカーだ。複合加工機市場は伸びており、これからもさらに広がると考えている。それはなぜか。現在は、機械1台あたり月間1万個以上のような超大量生産が少なくなり、月間で数千個や数百個の多品種少量生産の比率が高まっている。超大量生産を行うためには専用工作機械を組み合わせた工程分割の方が効率が良いが、多品種少量生産になると頻繁に異なるモノを作ることになり、複合加工機の方が力を発揮できるようになる。欧米では既に工程集約の取り組みが進んでおり、われわれの輸出比率は70%を超えている。
現在はわれわれの国内販売も伸びてきており、この比率は変わってくる可能性が高い。特に自動車業界で変わってきているという印象だ。ロットは小さくても多品種の生産が求められるようになり、複合加工機による工程集約に関心が高まっている。
ただ普及のスピードはまだまだ遅い。今後は加速度的に工程集約が進んでいくのは目に見えており、欧米ではそういった生産方式に対応できなければ競争力が維持できないようになってきている。だからこそ普及を進めなければならない。
製造現場の人手不足は世界的な課題だ。それぞれの加工の機械を5台、6台と使っているとオペレーターも5人、6人、省人化しても2人、3人は必要だ。複合加工機なら1台ですむし、オペレーターも1人、ロボットを導入するにしても1台でいい。自動化がしやすくなる。
複合加工機のパイオニアの1社として、この市場はわれわれが作ったと思っている。複合加工機を広める責任があり、広まらなければわれわれの責任だと考えて全集中で力を入れている。
MONOist 新たに建設した第13工場にはMAGIと命名しました。改めて新工場建設の狙い、命名の由来などを教えてください。
中村氏 MAGIとは新約聖書に登場する東方の三賢者を示す。組み立てを行う第11工場、第12工場、第13工場の3つが力を合わせていく姿と重ねた。また、賢者としてIoT(モノのインターネット)をフル活用する。われわれは従来よりソフトウェアを内製し、現場に根付かせ、会社を変えていくという活動を続けてきた。
また、MAGIというのは英語のMagicなどの語源にもなっている。あるユーザーから「(工程集約が)本当にできると思わなかった。現場が変わった。まるで魔法のようだ」と言われたことがあるが、複合加工機で魔法のように工程をまとめていくという意味も込めている。
新工場稼働を機に、今までと作り方を変える。そのためには体だけではなく、頭も使わないといけない。賢者のように知恵を使い、新しい生産方式を根付かせなければならない。
需要のピーク時でも安定的に出荷できるように生産方式も変えた。ユニットを作る工程を組み立て工場から離れた第7、第8工場で分散して行っており、物の運搬、人の移動が生じていた。それを1カ所にまとめてユニットの製作、本体組み立て、配管、試運転、カバー付け、検査、出荷までの流れを整流化して効率化する。
従来は生産能力を上げようとしても、どうしても機械が設置できるスペースが足りなかった。作業者の配置をいくら工夫しても、機械が置けないと作れない。供給能力がないと複合加工機の普及も進まない。機械を設置するスペースを確保するだけではなく、スペースの回転も良くする。
繁忙期は組み立て作業者にも運搬を手伝ってもらっていたが、やはり組み立て作業に集中してほしい。物の搬送はAGV(無人搬送車)に任せ、夜間に供給させて作業者が朝来たら既に部品がそろった状態でスタートできるようにする。
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