連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第1回は、CAE活用レベルのデジタル化3段階の解説と、Simulation Governanceという用語の成り立ちを紹介する。
ダッソー・システムズの工藤啓治と申します。今回から「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」と題した連載記事を執筆させていただくことになりました。本題に入る前に、自己紹介と本連載のテーマである「Simulation Governance(シミュレーションガバナンス)」の取り組み背景について簡単に説明させてください。
2023年8月末現在、筆者は社会人人生39年目を進行中です。20代はFORTRANプログラマーから出発し、構造解析やCFD(数値流体力学)プログラムの販売、サポートといった代理店ビジネスを経験してきました(構造解析ソフト「ADINA」や流体ソフト「FIDAP」をご存じの方もおられるかもしれません)。
30代は、当時のCray Research Japanでシミュレーションアプリケーションの実装や高速化、並列化に取り組んだ他、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング/高性能計算)のマーケティングやプリセールス、販売支援を行っていました。
40代になり、「Isight」という製品を開発していたEngineous Softwareの日本法人設立に加わり、最適設計やロバスト設計の啓蒙(けいもう)、市場/ビジネス開拓に従事してきました。
そして、2008年にEngineous Softwareがダッソー・システムズに買収された後、筆者はSPDM(Simulation Process & Data Management)製品を立ち上げるワールドワイド横断型部署に参画することになりました。
それまで、シミュレーション自体しか見てこなかった筆者ですが、SPDMビジネスに携わるようになったおかげで、広い視野でシミュレーションを見直す機会が得られ、「シミュレーションをどう活用するか」という外側からの視点を養い育てることができました。また、こうした過去の経験に加えて、筆者自身が構造や流体、機構、電磁場といった解析の専門ではなかったことが、かえってシミュレーションを俯瞰するのに都合が良かったように思います。
「シミュレーションを設計視点から見直してみたい!」という動機から、2013年にFacebookに「デザイン&シミュレーション倶楽部」というページを立ち上げて記事を書き始め、2015年からはダッソー・システムズが公式ブログを立ち上げたのを機に、Facebookページの過去記事を再構成して「デザインとシミュレーションを語る」というブログを掲載し始めました。余談となりますが、こちらのブログに関しては、それまでの全体像を俯瞰するという位置付けで、本連載のテーマであるSimulation Governanceを節目に近々終了する予定です。
以上、前置きが少々長くなりましたが、今回のテーマについて執筆することになった背景の一端をご理解いただけたかと存じます。なお、Simulation Governanceで扱うテーマは非常に幅広いため、本連載では必要に応じてブログ「デザインとシミュレーションを語る」で掲載済みの内容を参照しつつ、解説を進めていきたいと思います。
さて、昨今の生成AI(ジェネレーティブAI)の革新性、大流行について語るまでもなく、IT全般の技術の進歩には目覚ましいものがあります。非線形も非線形、指数的に発展していることに驚きを感じざるを得ません。AI(人工知能)の発展のスピードには及ばないものの、シミュレーション技術もしかり、超高精度なデジタルツインシミュレーション、統合モデルと複合領域のシミュレーションの密連携ともいえるAdditive Manufacturing(アディティブマニュファクチャリング/付加製造)、シミュレーションデータの機械学習適用などは、昨今のトレンドの代表例といえるでしょう。
そうした最先端技術自体のレベルが急速に進歩している一方で、シミュレーションを活用すべき設計現場、支援しているCAE部門の状況を眺めますと、実のところ、驚くほど進歩が遅い、もしくは停滞しているという現状が見えます。筆者自身も過去10年間(あるいは20年間)何も変わっていないという状況に危機感を抱いてきました。最先端技術は進歩しているにもかかわらず、その効果を享受しているのはほんの一部の組織や人材であり、大半は従来技術でさえも使いこなせていない、あるいは知識さえもないという“二極化”が進行しているように感じています。
その課題を明らかにし、長期的、本質的に解決していくための道筋を示さない限り、これから先の10年も何も変わらないままではないか――。
筆者はそのような使命感を抱きながら、ここ数年、Simulation Governanceについて真剣に考え、具体的な対処方法を実現しようと試みてきました。本連載では、CAEに関わっておられるできるだけ多くの方々、組織層の皆さんに向けて、Simulation Governanceの重要性とその詳細を語っていきますが、特に、以下のような課題をお持ちの方々に向けた、励ましと行動のためのメッセージになればと考えております。
本連載から得られた気付きやヒントが、改革に向けた第一歩を踏み出すきっかけにつながることを願っています。
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