国内製造業で拡大するサステナブル投資、脱炭素評価で利益生む仕組みづくりも進むかものづくり白書2023を読み解く(2)(1/5 ページ)

日本のモノづくりの現状を示す「2023年版ものづくり白書」が2023年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2023年版ものづくり白書」の内容を紹介していく。

» 2023年08月23日 10時00分 公開
[長島清香MONOist]

 2023年6月に公開された「令和4年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2023年版ものづくり白書)を読み解く本連載。第1回では、2023年版ものづくり白書の「第1部ものづくり基盤技術の現状と課題」の「第1章業況」「第2章就業動向と人材確保・育成」を中心に、国内製造業の現状を確認した。

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 エネルギー価格の高騰などを受け、欧米各国は発電部門や産業部門などにおける巨額の脱炭素関連投資の支援や、新たな市場やルール形成に着手するなど、脱炭素に向けた取り組みを加速させている。脱炭素に関する市場ルールの形成が世界的に進むなか、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)による全体最適化の達成が、製造事業者の先進性の評価軸となる国際的な潮流が生まれている。

 日本企業もこうした動きに対応する必要があり、サプライチェーンも含めた製造事業者の取り組み要請も高まりつつある。第2回となる本稿では、2023年版ものづくり白書において、日本製造業における脱炭素への取り組みがどのように進展したとされているのか見ていきたい。

脱炭素の実現に向けた世界的な機運の高まり

 日本の製造業における取り組みを見る前に、カーボンニュートラルの実現に向けた国際的な動向を確認したい。気候変動問題への対応が世界共通の課題となる中、カーボンニュートラル目標を表明する国/地域が増加し、世界的に脱炭素の実現に向けた機運が高まりをみせている。2022年にはCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)の開催に加え、産業などの脱炭素化に向けた国際的イニシアチブにおける議論も活発化した。

 さらに、2022年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻を背景としたエネルギーの価格高騰に対し、欧州連合(EU)では10年間に官民協調で約140兆円程度の投資実現を目標とした支援策を定め、一部のEU加盟国では国家を挙げて発電部門、産業部門、運輸部門などへの脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取り組みを加速している。

 米国では、超党派によるインフラ投資法に加え、2022年8月には、10年間で約50兆円程度の国による対策(インフレ削減法)を定めるなど、欧米各国は国家を挙げた脱炭素投資への支援策に取り組んでいる(図1)。

図1:諸外国におけるGXへの政府支援[クリックして拡大] 出所:2023年版ものづくり白書

カーボンニュートラル実現に向けた日本製造業の取り組み

 カーボンニュートラルの実現に向けた日本製造業の取り組みについて、2023年版ものづくり白書では以下の2つを紹介している。

 1つは2022年7月に設置された内閣総理大臣を議長とする「GX実行会議」だ。同会議は、産業革命以来の化石燃料中心の経済/社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済/社会システム全体の変革(GX)を実現するため、必要な施策を検討することを目的として設置された。同会議では、2022年7月から12月まで全5回の議論を行い、同年12月22日開催の第5回会議では「GX実現に向けた基本方針」をとりまとめ、2023年2月10日に同基本方針を閣議決定した。

 基本方針では、気候変動問題への対応やロシアによるウクライナ侵攻を受け、国民生活と経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保するとともに、日本の産業競争力強化/経済成長の同時実現に向けて、今後10年間で官民合計で150兆円を超える投資が必要であることを示し、この巨額のGX投資を官民協調で実現するため「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現していくとした。具体的には「GX経済移行債」などを活用した大胆な先行投資支援や、炭素に対する賦課金などのカーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用といった措置を講じることとしている(図2)。

図2:成長志向型カーボンプライシング構想(案)[クリックして拡大] 出所:2023年版ものづくり白書

 もう1つは「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会」だ。サプライチェーン全体での温室効果ガスの排出量削減を進めるためには、脱炭素/低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創出する必要があり、その基盤として製品単位の排出量(カーボンフットプリント、CFP)を見える化する仕組みが不可欠となる。製造事業者は、顧客企業、消費者、金融市場などのさまざまなステークホルダーからサプライチェーン全体における排出量の見える化が求められており、取り組みの有無が企業価値を左右する評価指標となりつつある。

 またグローバル企業によるグリーン製品の調達行動など、CFPに着目した国際的なイニシアチブが動き出しており、国際競争力の維持/強化のためにもCFPの見える化、削減を促す必要がある。これらを背景に、経済産業省では2022年9月より「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会」を開催しており、2023年3月にはCFPに関連する政策対応の方向性を明示する「カーボンフットプリントレポート」と、CFPの算定及び検証についてのガイドライン「カーボンフットプリントガイドライン」の2つを取りまとめて公表した(図3)。

図3:カーボンフットプリントの定義[クリックして拡大] 出所:2023年版ものづくり白書
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