――なるほど。PowerShot V10には何かベースになるモデルというのはあったんですか?
大辻 ベースになった商品は、ないというのが正しいですね。
――全くの新規で取り組んだと。
大辻 はい。ただ製品の企画を進めていく中で、弊社の中では過去、iVIS miniやiVIS mini Xといった自分撮りにフォーカスした商品がありましたので、ここの製品で得た知見や、コンパクトデジタルカメラで搭載している機能やノウハウなどは、大いに参考にしました。
――iVIS miniは2世代に渡って展開したわけですけど、あれはもう2013年とかなんですよね。同じ自分を撮ると言っても、当時と今ではやはり使われ方がだいぶ違ってきているのではないでしょうか。
大辻 おっしゃる通りですね。まず、自分で喋るにしてもカメラを持ちながら喋るといった発信の仕方が増えたことで、手で持って自分を撮影しやすい、というポイントを踏まえる必要が出ています。発信の仕方や内容が多様になっていることも重要です。
そしてカメラを持つ方々の価値観自体がかなり変わってきていて、使いやすさやデバイスへの価値観が、スマートフォンが基軸になっているところがあります。起動が早いとか、待ち時間が少ないとか、触っている内になんだか使いこなせるようになるとか。例えばUI(ユーザーインタフェース)にしても、iVIS miniやiVIS mini Xの時代とは全く考え方が違ってきています。
――ベースとなるモデルがないということでは、この形にたどり着くまでの道のりはまあまあ長かったんじゃないかと想像します。
稲積めぐみ氏(以下、稲積氏) この右側のものが、最初にYouTubeに動画を上げている方たちにヒアリングした時に持っていったものです。縦型と、従来のような横型を両方準備してみたのですが、どちらも「これはちょっと大きい」といわれてしまいました。
そこで次に考えたのが、真ん中のタイプです(写真上段の右から2番目)。割と今の形に近いんですけど、結構レンズ部が出っ張っています。ここに抵抗を示された方が結構多くて。おそらくスマートフォンのようにスッとポケットに入るような凹凸の少ない形を毎日使って見慣れているので、こういう引っ掛かりのある形があんまり好まれないんだということが分かりました。
そのため、最終的には左側のような凹凸の少ない、出し入れしやすいような形になっていきました。
――これ、録画ボタンが正面中央にあるわけですけど、こういうレイアウトは珍しいですよね?
稲積氏 そうですね。背面からは画面タッチで録画できますが、やっぱり一番は自撮り撮影にぱっと入れるところを重視しました。あとは分かりやすさですね。一目見てここに赤い丸があると、ここを押せば何かできそうだと分かります。
当社のデザインセンター内にユーザビリティとかを見る部隊がいますが、このボタンも大きさや形、どこに配置すれば自然に指が届くのかなどをその人たちと一緒に検討して、この位置にしました。
――このボタン、ボディーを前後でつまんで押すことになるわけですが、このボタンの反対側が何なのかって重要だと思うんですよね。ある製品だとそこがモニター表面になっていて、ボタンを押すたびにモニター上のボタンも押しちゃって訳が分からない設定になるということがあったんですが、PowerShot V10は巧妙に裏側に指置きがある。非常にうまいデザインだと思います。
稲積氏 ボタンの背面には、指を置くためのポチポチが付けてあります。人差し指と親指って、カメラを安定して保持するのにすごい重要な位置関係にあるんですよね。完全に同じ高さではなくて、ちょっと上下にずらして、人差し指は少し上、親指は少し下で、安定してカメラを保持できるような位置関係になっています。
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