JSRが仕掛ける国内半導体材料業界再編、官民ファンドが株式非公開化で後押し製造マネジメントニュース(1/2 ページ)

JSRは、官民ファンドである産業革新投資機構傘下のJICCが実施する約9000億円規模の株式公開買い付けによって非公開化する方針について説明。「半導体材料の事業再編に向けた大きな推進力を得られる」(JSR 代表取締役 CEO 兼 社長のエリック・ジョンソン氏)という。

» 2023年06月27日 07時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
JSRのエリック・ジョンソン氏 JSRのエリック・ジョンソン氏

 JSRは2023年6月26日、オンラインで会見を開き、官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)傘下のJICキャピタル(JICC)が実施する約9000億円規模の株式公開買い付けによって非公開化する方針について説明した。JSR 代表取締役 CEO 兼 社長のエリック・ジョンソン氏は「JICの傘下に入ることによって、半導体材料の事業再編に向けた大きな推進力を得られる。当社財務状況は健全で堅牢であることから、今回の株式非公開買い付けは経営再建を目的としておらず、さらなる機会を求めるためのものだ」と語った。

 今回のJICCによるJSRの非公開化は、同社が高シェアを握るEUV(極端紫外光)フォトレジストなどを手掛ける半導体材料を中核としたデジタルソリューション事業の強化に向けて、グローバル市場で優位なポジションにある国内半導体材料業界の再編を主導したい狙いがある。

JICCによるJSRの株式非公開化の背景 JICCによるJSRの株式非公開化の背景[クリックで拡大] 出所:JSR

 ジョンソン氏は、非公開化によって親会社となるJICCについて「パートナー」であることを強調した。「JICCとの協業を通じて戦略の推進を加速し、リーディングテクノロジーカンパニーとしての存在感を高めて、企業理念である『Materials Innovation』を実現する」(同氏)。

 また、JICCとのパートナーシップの意義として「国内半導体材料業界再編へのコミットメント」を挙げた。これまでもJSRは、国内半導体材料業界の再編を志向してきたが「パートナー候補にためらいがあり、結果として進展しなかった。JICCの政府系ファンドという中立的立場を生かせば、円滑な再編、統合を期待できる」(ジョンソン氏)。

JICCとのパートナーシップの意義と目的 JICCとのパートナーシップの意義と目的[クリックで拡大] 出所:JSR

 これらの国内半導体材料業界の再編によって、JSRの企業価値を向上できることを前提に再上場を目指す方針も明らかにした。ジョンソン氏は「さまざまな条件があるので確定的なことはいえないが、5〜7年後に実現したい」と述べる。

 ニュースリリースでは、海外の半導体材料メーカーが大型の合併/買収により資金面、人材面、技術面で競争力を高めており、合併/買収が進んでいない国内の半導体材料メーカーがより一層の競争力強化が求められること、JSRがプロセス材料や5G技術に対応する実装材料などにおいて依然として低い市場シェアに甘んじている半導体材料もあり、また、高い市場成長が望まれるにもかかわらず、参入していない半導体材料も多数存在していることなどを課題として挙げた上で、「そのため、半導体材料においては、現在の競争優位性を維持、拡大するための研究開発/設備投資にとどまらず、国内に有望なメーカーが多数存在する半導体材料業界において、より大胆に業界再編を志向することで、幅広い半導体材料のラインアップでの高い市場シェアの獲得や他社との技術的融合、新たな人材/技術の獲得が可能となるリソース面の充実により、国際競争力を高めていく必要がある」としている。

 官民ファンドであるJICの傘下にあるJICCも、政府が経済安全保障推進法における特定重要物資として半導体を指定しており、2nmプロセスの半導体生産を目指すRapidusをはじめ次世代半導体関連の技術開発、量産化、設計、製造基盤の確立を2020年代後半に目指すことが政府骨太方針などでうたわれる状況下において、JSRが目指す半導体材料を中心としたデジタルソリューション事業の強化に向けた取り組みを支援する方針を固めた。JSRは今回の非公開化によって、現状の資本構成や短期的な業績変動などに影響されずに、半導体材料業界の国際競争力強化に向けた事業再編や民間資金の獲得を推進できるという。

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