デザインを良くするにはお金(コスト)が必要か?設計者のためのインダストリアルデザイン入門(5)(2/4 ページ)

» 2023年06月19日 09時00分 公開

デザインを評価する「VE(Value Engineering)」

 デザインの評価基準がさまざまであることはお伝えした通りです。では、製品開発の現場ではどのようにデザインの良しあしを判断し、それに取り組めばよいのでしょうか。

 これを考えるに当たっては、“デザインで発生するコスト”について理解する必要があります。たとえデザイナーの提案によって製品の見た目が美しく、そして、使いやすくなるとしても、いくらでもコストをかけてよいわけではありません。デザインによって製品の機能がどれだけ向上したかということと、それに対してどれだけコストがかけられたかのバランスが重要です。

 本稿では、デザインの評価方法として「VE(Value Engineering)」について取り上げたいと思います。

 VEとは、製品やサービスの「価値」を、必要とされる「機能」と「コスト」の関係で捉え、“最小のコストで必要な機能を達成すること”を目指す考え方です。VEは設計業務でも頻繁に用いられる考え方ですが、デザイン業務でも同様に使えます。良いデザインの製品とは、ここでいう「価値」が高い製品のことであり、デザインの仕事はどれだけ製品の価値を向上させられるかが問われます。

 VEの考えに基づく、価値、機能、コストの関係式は以下の通りです。

価値、機能、コストの関係式 図1 価値、機能、コストの関係式[クリックで拡大]

 ユーザー目線でいう「コスト」とはその製品やサービスを利用するために必要なお金、時間、労力などのことです。「機能」とは使いやすさやそれを使用することによって享受できる利便性や愛着などさまざまな項目を指します。そして、「価値」は機能をコストで割った値です。

 このとき、価値を向上させる方法としては以下の4つが考えられます。単にコストダウンを図るのではなく、機能とコストの両面から価値向上を図ります。

  1. コストを変えずに機能を向上させる
  2. 機能を変えずにコストを削減する
  3. コストを削減して機能を向上させる
  4. コストをわずかに増やして機能を大幅に向上させる

 デザインによる価値向上となると、製品の加飾などを例とし、4.に目が行きがちですが、1〜4.のいずれの選択肢も十分にあり得る方法といえます。例えば、これまで本連載で説明してきたように、ボタンのレイアウトの改善や形のバランスを整えるといった手法によって、コストを変えずに機能(使いやすさや見た目)を向上させる(1.)こともできます。

 なお、この関係式は具体的な値を持つ数式のようにも見えますが、あくまで概念的なものだとご理解ください。

 この考えの下では、デザインが責任を担う「見た目の美しさ」も一つの機能といえます。つまり、VEの考えに従うのであれば、その取り組みによってたとえ見た目が良くなったとしても、コストに見合った向上がなければ製品の価値は下がるということになり、それはつまり悪いデザインであると評価できます。

 VEは非常に便利な考え方ですので、設計者やデザイナーに限らず製品開発に従事するメンバーの共通言語として理解しておくことを推奨します。ただし、デザインにおけるVEは定性的な評価に頼らざるを得ない部分も多く、議論が難しくなるケースがあるという点に留意しなければなりません。

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