製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は良いデザインの定義、デザインとコストの関係、デザインの評価方法について解説する。
「デザインを良くするためにはお金をかけるしかない」と思っている人が多いように感じます。果たしてそれは真実なのでしょうか? 今回は工業製品開発のデザインとそのコストに焦点を当てて解説します。
メーカーでモノづくりに従事している人であれば、間違いなく「コスト」について考えたことがあると思います。そして、その多くが“コストダウン”についてではないかと推察します。逆に、「この製品の製造コストはもっと高い方がいい」などと“コストアップ”につながるアイデアを考えたことは著者の実務経験の中で一度もありませんし、聞いたこともありません。
設計や製造だけでなく、デザインを進めるに当たっても“コストの話”は付き物です。インダストリアルデザイナーと仕事をしたことのある読者であれば、デザイナーの要望を再現しようとするとコストが計画よりも積み上がってしまうことが分かり、頭を抱えてしまった……という経験がある人も少なくないでしょう。
「デザインを良くするにはお金をかけざるを得ない」と考える設計者やデザイナーは多いようです。確かにデザインを良くするためにお金をかけることは珍しくありませんが、果たしてそれは必要条件なのでしょうか。
結論、良いデザインを実現するためにコストアップが不可欠かというと、必ずしもそうではありません。むしろ、適切なコストで作れるデザインであることが、良いデザインの前提条件ともいえます。
それでは、この理由について著者の実体験を踏まえながら解説していきます。
そもそも工業製品における「良いデザイン」とは何を意味するのでしょうか。良いデザインというと、まずは見た目の美しさ(意匠性)を思い浮かべるかもしれません。確かに、デザインという言葉が普及し始めた1960年代の日本では「デザイン=見た目の美しさ」であったのは間違いありません。しかし、(これまでの記事でも解説したように)元来デザインおよびデザイナーは製品の見た目を美しくするだけではなく、使い勝手や機能性に関しても追求し、それらをより良くする役割を担っています。
また、時代の流れとともにデザインに期待される領域はさらに広がっており、昨今では環境への配慮や技術的な革新性でさえも“デザインに期待される要素”となっています。
こういった流れを受けてか、日本デザイン振興会が運営する「グッドデザイン賞」では現在(2023年時点)、以下を審査の視点として公表しています(参考:2023年度グッドデザイン賞 審査について)。
デザインの評価にはさまざまな観点が存在し、単に美しい見た目だけでなく、使いやすさや機能性、環境への配慮、社会的貢献なども考慮されます。お金(コスト)をかけて美しい見た目にしたからといって、それが必ずしも良いデザインであるとはいえません。また、美しい見た目を実現する過程の中で、非合理的なプロセスが含まれるようであれば、「それは悪いデザインだ」と評価されてしまう可能性があります。
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