デザインを良くするにはお金(コスト)が必要か?設計者のためのインダストリアルデザイン入門(5)(3/4 ページ)

» 2023年06月19日 09時00分 公開

どうしてデザイナーはコストを見積もれないのか?

 前述したように、製品開発におけるデザインの良しあしを検証するには、機能とコストの両方を評価する必要があります。しかし、特に大手企業のデザイン部門はデザインを提案する立場であるにもかかわらず、デザインのコストを見積もる機能を持っていないケースが多く、これが開発の流れを滞留させる要因にもなっているように思います。

 筆者は現在デザイナーとして活動していますが、過去には大手企業や中小企業で機構設計者として従事しており、その中でインダストリアルデザイナーとのコミュニケーションも多く経験してきました。著者が設計者の立場で受けたデザイン部門からの要求のうち、特に意匠に関連するものには追加費用がかかるケースも珍しくありませんでした。例えば、「製品のカラーバリエーションを増やしたい」「板金部品を黒く塗装したい」など、これらの要求は毎回といってよいほど出ていました。

 しかし、このときのコスト設計の責任は主に設計部門にあり、無条件にデザイナーからの要求を受け入れることはできませんでした。その際、筆者はデザイナーとコミュニケーションを図り、「なぜそのデザインが必要なのか」「どのように実現する想定なのか」と質問してみるのですが、デザイナーから設計側に伝えられる情報は、VEでいう機能の向上に関する話がほとんどで、コストの情報が抜け落ちているため、それが価値のある提案なのかの判断が困難でした。

 結果、著者が所属していた組織の場合は、コスト見積もりの機能を有している設計部門の主張が多くの場合で優勢となり、デザイナーの提案が棄却されるケースを多く見てきました(どの組織が力を持っているのかは会社によるところも多いのであくまでも一例としてご理解ください)。

 それでは、なぜデザインを提案する立場であるにもかかわらず、デザイン部門にコスト見積もり機能がないことが多いのでしょうか。

 その理由は、組織の構造的な問題によるところが大きいようです。特に、縦割りの組織で構成される企業のデザイン部門は、製品の外観や顧客体験などの視点の検討や顧客の要求、市場のトレンドに即した魅力的なデザインを提案することに焦点を当てています。

 一方、コスト見積もりは製品開発の中で必要な工程や材料、製造工程などの費用を評価する作業です。これには少なからず設計や製造の専門知識が必要であり、情報の蓄積場所も別の組織であることがほとんどです。こういった背景があり、デザイナーが直接的にコスト見積もりに関与することが難しいのがインハウスデザイナーの現状です。しかし、正確なコストの見積もりは出せずとも、適切なコスト感を持っていることが社内コミュニケーションにおいて強力な武器になるのは間違いありません。

 また、もし設計者として「デザイナーの提案を推進したい」と考えるのであれば、設計者はそれを実現するために必要なコストだけに着目するのではなく、そのデザインを実現した際に得られる機能やその広がりにも目を向け、互いに協力的にデザインの実現に取り組むことが、デザインを活用して製品の価値を最大化するためには重要といえます。

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