最終回となる連載第12回では、「PDMのことだけを考えていては、PDMシステムの運用はうまくいかない」をテーマに、3D CADによる設計データを企業資産/インフラとして一気通貫で有効活用していくために必要な考え方について解説する。
これまで、PDM(Product Data Management/製品情報管理)システムで設計データをどのように管理すべきかについて述べてきました。「複数の設計者が3D CADを用い、設計データを共有しながら業務を遂行していく」という現場であれば、PDMは必須のシステムであると筆者は考えます。
しかしながら、PDMはデータベースを扱う高度なシステムでもあり、ハードウェア/ソフトウェアの導入のみならず、システムの維持管理にもそれなりのコストを要します。さらに、導入から立ち上げ、実運用に至るまでの時間や工数もかかるため、PDMシステムへの設備投資のハードルは低くありません。そのため、3D CAD導入と比較しても、PDMシステムの普及はさらに遅れているように感じます。
製品の構成を表す情報は、設計部門が作成する部品図や組立図が起点となり、これらはPDMシステムによって管理されます。そして、3D CADの運用が進むにつれて、そのデータは企業全体の資産/インフラとして、設計部門だけでなく、あらゆる部門で利用されることになります。
最終回となる今回は「PDMのことだけを考えていては、PDMシステムの運用はうまくいかない」をテーマに、3D CADによる設計データを企業資産/インフラとして一気通貫で有効活用していくために必要な考え方について、架空の会社X社で働くAさんの取り組みを追いながら解説していきます。
■PDM運用を進めてきたX社の状況
3D CADを運用してきたX社は、設計データを管理する目的でPDMシステムの導入を検討し、現在使用している3D CADと同じメーカーのPDMシステムの導入を決めました。そして、PDMシステムの導入を機に、3D CADの運用方法の見直しも図るなど、X社では設計現場における3D CAD運用と、設計データの管理方法の最適化を目指しています。
X社のAさんは、上記リスト(3D CAD運用方法の策定、PDMシステム運用環境の構築)で取り上げた一連のPDMシステムの導入/立ち上げ作業を行い、無事に運用開始までプロジェクトを推進することができました。ようやく肩の荷が下りたAさんは、社外からプロジェクトを支援してくれていたBさんに、プロジェクトが完了したことを報告しました。
Aさん おかげさまでPDMシステムの運用をスタートできました! これで3D CAD業務における設計データ管理の課題だった改訂/履歴管理もうまくいくでしょうし、新規設計と流用設計の運用方法もPDMシステムの構築と同時に決めることができました。設計部門への教育も行い、問題なく運用もできている様子なので、もうやることはないですね!
Bさん ひとまずおつかれさまでした。PDMシステムの構築は“設計データを正しく管理する”というとても重要な仕事です。それだけに運用方法の策定や環境構築も大変だったでしょう。本当にここまでよく頑張りましたね! でも、これで終わりではないのですよ。
Aさん えっ? まだやるべきことがあるのですか!? 設計データの管理ができるようになりましたし、これでいいじゃないですか……。
Bさん これから必要になるのはPDMシステムの維持管理と発展です。次のフェーズに向けた検討を始めましょう!!
Aさん ……はいっ!!
PDMシステムの運用開始後、しばらくして必ず直面するのがバージョンアップです。3D CADのバージョンアップと同様に、PDMシステムも機能強化や不具合の修正などが定期的に行われます。
PDMシステムで設計データを管理するには、PDMシステムとともに3D CADのバージョンも足並みをそろえて更新しておく必要があります。運用環境のバージョンアップを行う際、設計者がチェックアウトしている設計データをPDMシステムに戻すなど、バージョンアップを実施するために必要な準備やそのスケジュールについても考えなければなりません。筆者の経験上、PDMシステムのバージョンアップには時間や手間を要します。思うように作業が進まず、有償のメーカーサポートに頼らざるを得ないケースもあるでしょう。
既に解説した通り、PDMシステムで設計データを含む情報を正しく共有していくためには、これまでのフォルダ管理とは異なる管理方法が必要です。さらに、データベースやハードウェアの保守、バックアップなどの作業も伴います。そのため、情報システム部門が存在しない中小企業では、PDMシステムの導入推進者がそのまま維持管理を行うケースも見られます。
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