「1Dモデリング」に関する連載。連載第18回は、製品と商品の違いを通して「ひとのモデリングの必要性」について説明すると同時に、現状の感性設計の問題点を明らかにする。また、ひとの内部構造が神経科学の急速な発展によって明らかになりつつあることを踏まえ、ひとのモデリングの新しいアプローチに関する考え方も提示する。
製品は商品となって、使用者であるひとの手に渡る。ひとは製品としての性能だけでなく、五感で多角的に商品を感じている。多くの性能は客観的な数値で表現可能であるが、ひとの多様な感じ方は数値化することが難しい。
今回は、製品と商品の違いを通して、ひとのモデリングの必要性について述べるとともに、現状のひとのモデリング(いわゆる感性設計)の問題点を明らかにする。最近、ひとの内部構造が神経科学の急速な発展によって明らかになりつつある。これらの知見も考慮して、ひとのモデリングの新しいアプローチについてその考え方を紹介する。
※1)「もの」「モノ」の表記について:本稿では、生産活動によって付加価値が与えられた成果物を表す場合は「もの」、経営学の三要素「ヒト、モノ、カネ」のように生産要素やリソースとして表す場合は「モノ」と表現する。
※2)「人」「ヒト」「ひと」の表記について:本稿では、「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けて表記している。
ものづくりとは原材料を企画、設計、生産を通して製品にしていくプロセスと考えられている。しかしながら、この後、販売促進、サービス、保守を付加して商品として顧客の手に渡る。
図1に製品と商品の関係を示す。われわれエンジニアは製品としての性能、コストを設計目標としてものづくりを行っている。一方、顧客は商品としてその使い勝手を吟味して購入の可否を決定する。この際、性能、コストも重要ではあるが、購入を決断させるのは、顧客が商品を見て触って使ってどう感じるかである。このことは、製品としての“もののモデリング”に加えて、商品としての“ひとのモデリング”が重要なことを意味している。すなわち、図1に示すように、ものを製品と捉え、もの中心のデザインを行うための“もののモデリング”と、ものを商品と捉え、ひとを考慮したデザインを行うための“ひとのモデリング”に分類できる。
ひとのモデリングの例として、製品音のデザイン(参考文献[1])について説明する。製品が発生する音は、一般には“騒音”と呼ばれ、そのレベルを低減させることに注力してきた。いわゆる騒音制御である。また、製品ができてからしか音が確認できないため、後追い設計となり、コスト増、熱設計への悪影響といった問題があった。
そこで、図2に示すように、構想設計段階で、試作前に、目指すべき音質を決定し、詳細設計段階で、目標音を他の機能とともに製品に創り込むという“製品音のデザイン”を適用して、従来にない音質がデザインされた製品を実現した。
これが可能となった背景には、音質を評価できる指標(メトリクス)と現製品音をベースに目標音を加工生成する技術の存在がある。この手法は、いわゆる“感性設計”の発展形でそれなりの効果はあったが、いくつかの感性設計で共通の課題があった。
その課題とは、(1)ひとは全て同じ音を聴いているという前提に立って音質メトリクスを作成していること(実際には聴こえ方には個人差があるはず)、(2)ひとがどう感じているかを評価するための官能評価は、そのバラツキをなくすために、10数人の被験者に対して実施し、その平均値を使用していること(個々人の評価ができていない)の2点である。
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